「注文から数日以内に衛星を打ち上げること。さらにその数日後にもう1機打ち上げること。成功すれば賞金1000万ドル」――。

米国国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)は2018年4月18日、こんなルールを定めた技術開発レース「DARPAローンチ・チャレンジ」(DARPA Launch Challenge)の開催を発表した。

現在、衛星の打ち上げには年単位の時間がかかっているが、DARPAではこれを日単位にすることで、将来の国防ミッションに役立てたいとしている。

  • スペースXのファルコン9ロケットの打ち上げ

    スペースXのファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

DARPAローンチ・チャレンジ

現在、毎週のように世界各地からロケットが打ち上げられ、数多くの衛星が宇宙へ送られているが、衛星の開発から打ち上げまでは最大10年、打ち上げの発注から実際に打ち上げが行われるまでに限っても年単位の時間がかかっている。

しかし、とくに軍事衛星では状況の変化にすぐに対応することが重要で、年単位の時間がかかっていては間に合わない。そこでDARPAは、打ち上げまでにかかる時間を数日にまで縮めることを目指し、このDARPAローンチ・チャレンジの開催を決定した。

計画を主導するDARPA戦術テクノロジー室のTodd Master氏は「現在のロケットや衛星の開発は、宇宙への打ち上げが世界的なお祭り騒ぎだった時代に行われたものです。しかし将来の打ち上げは、世界中のあちこちから頻繁に飛び立つ、まるで航空機の運航のようになるでしょう」と語る。

DARPAローンチ・チャレンジでは、まず参加チームに対して1回目の打ち上げ場所の情報が提供される。チームはそれから数週間以内に、その指定場所から打ち上げを行わなくてはならない。

衛星はDARPAが提供するものの、どんな姿かたちをして、何をする衛星なのかといった詳細は事前には知らされない(10~1000kg程度の小型衛星になるという)。また、衛星を投入する軌道も、地球低軌道ということ以外は直前まで明らかにされないという。

参加チームは、DARPAから衛星の情報提供と打ち上げ軌道などの要求、そして衛星の引き渡しを受けてから、数日以内というきわめて短期間のうちに打ち上げを行う必要がある。

1回目の打ち上げが成功すると、DARPAから2回目の打ち上げ場所の発表がある。1回目と同じく、打ち上げ直前まで情報は提供されない上に、軌道も低軌道ということ以外は明らかにされないが、2回目ではさらに、打ち上げ場所の発表から打ち上げまでも数日以内に行うことが定められており、1回目よりも条件が厳しくなっている。

レースの賞金は、まず参加が認められたチームに対して40万ドルが与えられ、1回目の打ち上げに成功した時点で200万ドルを授与。そして2回の打ち上げが完了した後、打ち上げにかかった時間やコスト、軌道投入精度といった観点から順位が付けられ、1位のチームには1000万ドル、2位には900万ドル、3位には800万ドルが与えられる。

現在のところ、最初の打ち上げは2019年後半に計画されている。

DARPAではこの試みを通じて、柔軟性と即応性の高い打ち上げ手段の開発を刺激し、将来の国防ミッションに役立てることを目指すとしている。

  • DARPAローンチ・チャレンジの概要

    DARPAローンチ・チャレンジの概要 (C) DARPA

真の即応宇宙システムは実現するか

衛星の打ち上げにかかる時間を短くしようという試みは、米国をはじめ、世界中で研究が続けられている。

中でも大きな成果を挙げたのは、米国防総省の即応宇宙作戦室(Operationally Responsive Space Office)が2011年に開発した偵察衛星「ORS-1」である。ORS-1は質量450kgほどの小型衛星で、地表を撮影できる光学センサーを搭載した立派な偵察衛星ながら、開発から打ち上げまで約30か月と、当時としてはかなりの期間短縮に成功。衛星も設計寿命を大きく超えて稼働した。

以来、技術の進歩とともに、さらなる期間短縮の可能性が出てきている。とくに電子部品の小型化によって、数kgから数十kgほどの小ささでも、従来の大型衛星に負けない性能をもった衛星が開発できるようになった。衛星が小さいということは開発期間やコストの低減につながる。

また、あらかじめ部品をストックしておき、ミッションに応じて光学センサーやレーダー、通信機器などを付け替えられる、"モジュール式"の衛星の技術も進み、衛星の開発に必要な期間は飛躍的に短くなった。

いっぽう、それをロケットで打ち上げる際にかかる時間の短縮はまだ実現していない。ただ、衛星が小型なら、それを打ち上げるロケットも小型で済む。そして昨今、小型・超小型衛星の打ち上げに特化したロケットの開発が、世界中で雨後の筍のように進んでおり、高頻度での打ち上げが可能と謳うところも多い。

また大型ロケットでも、スペースXの「ファルコン9」は、まもなく登場する新型機「ファルコン9 ブロック5」によって、打ち上げから再打ち上げまで24時間で行うことが可能になるとしている。

こうした背景から、DARPAは、今回定めたようなルールは、技術的に実現可能だと考えているという。

もうひとつのネックは、打ち上げに必要なライセンスの問題だが、DARPAでは米国連邦航空局(FAA)と協力し、今回のレースのような異なる発射場からの高頻度打ち上げを可能にするため、規制改革を行うとしている。

  • 米国防総省のORS-1の想像図

    30か月という短期間で衛星の開発から打ち上げまでなしとげた、米国防総省のORS-1の想像図 (C) DoD

参考

New DARPA Challenge Seeks Flexible and Responsive Launch Solutions
DARPA Launch Challenge
DARPA Launch Challenge: Qualification Guidelines
Kirtland Air Force Base > Units > ORS
DARPA announces responsive launch prize competition - SpaceNews.com

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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