自動車業界はデジタル化/エレクトロニクス化の進展にともない、その開発の様相も様変わりしつつある。特に自動車の製造・販売を手がける自動車(OEM)メーカーはまだしも、ティア1に代表されるような部品サプライヤは、自社が手がける領域以外は製品として有しておらず、実際の車に搭載して試す、といったことが難しい一方で、OEMメーカーから、部品単体ではなく、システム単位での提案が求められるようになってきており、そうしたニーズに対応する必要性が生じつつある。
MathWorks(マスワークス)は、そうした自動車業界のニーズの変化に対応することを目的に、2018年3月に発表した最新バージョン「MATLAB/Simulink Release 2018a」にて、車両運動を仮想3次元環境でモデル化およびシミュレーションするための新製品「Vehicle Dynamics Blockset」を追加した。
Vehicle Dynamics Blocksetで想定されているユースケースは以下の3点。
- Ride & handling:標準運転テストでの車両性能の特性評価(例:ISO 3888-1:1999)
- Chassis controls:シャシー制御システムの設計、テスト
- ADAS/自動運転:ADAS/自動運転向けの仮想3Dテスト環境
こうしたテスト・評価に対してSimulinkで作られた車両のモデルデータとゲームエンジンである「Unreal Engine 4(UE4)」を連携させてシミュレーションを行うことが可能となる。
具体的にVehicle Dynamics Blocksetにて提供されるのは、「オープンかつドキュメト化されたコンポーネントとサブシステムのライブラリ(ブロックライブラリ)」、「パラメータ変更可能でカスタマイズ可能なリファレンスアプケーション(車両モデル)」、「Unreal Engineとのシミュレーョン連携」の3つの機能で、Unreal Engineの物理エンジンは用いずに、Simulinkのライブラリを活用する形で、Unreal Engineには結果の出力という形で表示し、車両制御のアルゴリズムや、ADAS/自動運転の制御アルゴリズムや画像処理アルゴリズムのより詳細な評価を可能とする(UE4として利用可能な機能は、UE4によってコンパイル済みの車両や道路などの環境といった実行プログラムとなる)。
また、見える化されることにより、より広範な理解が可能となる。例えば、Simulinkで作成した車両走行データと、UE4上に作成した道路、白線、障害物、対向車や追い越し車両を組み合わせることで、そうした周辺状況を光学カメラでどのように認識するのかといったことや、障害物を避けた際の挙動は、時速何kmで走った場合はどのようになるか、といったことを視覚的に一目で理解することができるようになるほか、実際の車両では取得が難しい数十万km以上の走行データや人間では運転すること事体が困難な挙動データなども容易に取得することができるようになる。
なお、Vehicle Dynamics Blocksetを使用するに当たっては、MATLABならびにSimulinkが必須であるほか、ステートマシンとフロー チャートに基づいて組み合わせとシーケンシャルの判定ロジックをモデル化およびシミュレーションするための環境である「Stateflow」の利用が推奨されている。また、UE4 Editorと接続して協調シミュレーションのために、UE4のプロジェクトファイルを同梱したサポートパッケージは提供されているが、UE4そのもののコマーシャルユースについては、開発元であるEpic Gamesに確認する必要があるという。