ビジネスにおける意思決定に役立つソフトウェアを提供するDomoは、3月14日から15日にかけ、米ユタ州ソルトレイクシティにて年次カンファレンス「Domopalooza 2018」を開催した。このカンファレンスでは、データドリブンのビジネスを進める方法について、創業者兼CEOのジャシュ・ジェームス氏がホストを務める基調講演のほか、さまざまな切り口のブレイクアウトセッションが用意されていた。

米Rapid7でBI&アナリティクス担当ディレクターを務めるティム・シーマンス氏の講演もその1つである。シーマンス氏は「Top Down and Bottom Up: Battle Tried Methods to Drive Domo Adoption from the department to the enterprise」と題した講演に登壇し、部門BIをどうすれば全社BIにスケールできるかという古くからある問題に対する提案を行った。

  • 米Rapid7 BI&アナリティクス担当ディレクター ティム・シーマンス氏

3つの要素から成るアナリティクス導入フレームワークを提案

Rapid7は、ボストンを本拠地に脆弱性リスク管理やペネトレーションテストなどのソフトウェアを提供するセキュリティベンダーである。同社は125カ国以上で事業展開を行い、7000以上の顧客を擁する成長中のNasdaq上場企業。マイクロソフトやNetflix、LCCのジェットブルー航空、老舗百貨店のメイシーズなどが同社の製品やソリューションを利用しているという。

シーマンス氏自身がRapid7に入社したのは2016年3月だが、同社がDomoを使い始めたのは2014年からと、機能を使い込んでいる"パワーユーザー"企業である。

Domoはクラウドネイティブかつモバイルネイティブのソフトウェアだ。ビジネスユーザーは、スマートフォンから業務に必要なデータに好きな時にアクセスすることができる。当初、Rapid7においてDomoは毎週わずか14人という限られた人たちがアクセスするツールであったが、1年半後には80%のユーザーが毎日使うようになるまでになったという。シーマンス氏は、「アナリティクスを必要ないと思っていた人が多かった頃と比べると、素晴らしい進歩」と現状を評した。

とはいえ、「Domoのようなアナリティクスツールは、われわれのような組織には適していない」「やるべきことが多すぎて何から手をつけていいかわからない」など、どうしたらいいのかわからないと悩む企業も多いだろう。BIやアナリティクスツールをうまく活用できない場合、「ほとんどはデータが多すぎることが問題」とシーマンス氏は指摘する。講演中、アナリティクス導入で成果を出すため、以下に示す3つの要素から構成されるフレームワークを活用することをシーマンス氏は提唱した(図1)。

  • Ship Early & Often(早い提供と頻繁な改善):最初から完璧であることを目指すより、反復的に改善を続けるほうがあるべき姿に早く近づく。組織内で反復ができるようにするには、ステークホルダーの参加を促すことが必要になる。

  • Announce & Explain(発表と説明):日常の取り組みを折に触れて説明する機会を設ける。Rapid7では、Domoで何ができるか、新しくできるようになったことを説明するようにした。

  • Empower & Train(エンパワーメントとトレーニング):トレーニングを提供し、チーム外でスーパーユーザーやエバンジェリストとして、熱意を持ってアナリティクスでできることの良さを伝えることができる人を育てる。

  • 図1:アナリティクス導入における3つの成功要因 資料:米Rapid7

トップダウンとボトムアップの両方のアプローチが必要

シーマンス氏のチームにはビジョンがある。「データの文脈を理解し、効果的なビジネスの意思決定と継続的なオペレーション効率の改善にデータを役立てる」がそれだ。このビジョンを実現するため、チームは「効率の最適化」「アドバンスドアナリティクスおよびデータサイエンス」「データマネジメントの成熟」「ビジネスパートナーシップとシステムの整合性」の4つにフォーカスしていると、シーマンス氏は説明した。

Rapid7で特に重視しているのは「データの民主化」だという。これは、意思決定に必要なデータへのアクセスをトップマネジメントだけに限定することなく、必要な人すべてにアクセスを許可することを意味する。データを基にした意思決定を行うには、データガバナンスやデータ品質にも目を向けなければならない。ビジネスの意思決定に必要なデータは社内に散在しているが、正しい意思決定の前提としてデータの品質を担保する必要があるからだ。

データの民主化は、アナリティクスを全社員のものとして浸透させるための突破口になる。それだけでは十分ではない。シーマンス氏によれば、アナリティクス導入をスケールさせるには、「ビジネスゴールと成果に合わせ、多くても3つ~5つのKPIを使う」ことが重要という。

KPIを絞り込むのは、担当者に合わせるとビジネスゴールに合わせた優先順位付けが難しいからだ。マーケティング部門の場合、顧客獲得コストやキャンペーンROIなど、重要なKPIは数多い。トップがすべてのKPIをモニタリングしようとすると情報過多になり、適切な意思決定を下すことの阻害要因ともなりかねない。

最初は部門のトップと話し合いを重ね、最低限必要な5つのKPIに絞り込んだ後、担当者が必要なKPIを決めるようにすれば、整合性が取れるようになるはずだ。Rapid7では、COOやCMO、セールス、法務、会計と同じやり方でKPIを決めた。「話し合いを一気に進めることは難しく、時間がかかるが、それは必要な時間だ」とシーマンス氏は振り返った。