組み込みOS大手のWind River Systems(ウインドリバー・システムズ)。同社が長年にわたって提供してきたリアルタイムOS(RTOS)「VxWorks」は年々アップデートを繰り返し、近年ではさまざまな派生プラットフォームの提供や仮想化対応などが行われてきた。
そんなVxWroksの航空宇宙産業向けRTOS「VxWorks 653」のマルチコア環境に最適化された最新バージョン「Wind River VxWorks 653 4.0 Multi-core Edition」が2017年末ころにx86向けに提供を開始。Arm向けも2018年中に提供を開始する予定だという。その最新版の最大の特長がゲストOSを未修正で仮想化することを可能とするハードウェア仮想化支援機能と、それを用いたマルチコアスケジューラの存在。これにより、「カスタマは安全性が認証されたハイパーバイザを導入することができるようになり、安全性の確保が必要な領域をLinuxやWindowsといった汎用OSと分けて利用することができるようになる」(WInd RiverのDirector, Business DevelopmentであるAlex Wilson氏)と同社では説明する。
この結果、航空機などでは、システム全体をRTCA DO-178C、EUROCAE ED-12C、RTCA DO-254、EUROCAE ED-80、RTCA DO-297、EUROCAE ED-124といった厳格な統合化アビオニクス(IMA)システム向け安全規格などに適合させつつ、共有のマルチコア対応ハードウェアプラットフォームを活用することができるようになり、デバイススペースや重量、消費電力の削減を図ることが可能となるという。
VxWorks 653は航空宇宙産業向けRTOSという位置づけだが、同社では、こうしたハイパーバイザの同分野での活用について、「最初に適用されるのは航空機。しかも大型の旅客機だと思っている。ボーイングなどの航空機メーカーとは、すでにVxWorks 653のシングル/デュアル/マルチコア開発で長年のパートナーとして付き合いがあるし、彼らは機体の高性能化を熱心に検討している」との見方を示す。また、一方の宇宙分野については「宇宙機への適用は相当先だろう。あるとしたら、有人宇宙機での採用から、ということになるのではないか」とする。
確かに、HPE/SGIがNASAと進めている「Spaceborne Project」のように、高性能なマルチコアの汎用コンピュータを宇宙で活用という試みそのものがようやくスタートしたばかりで、まずは多くの需要が存在し、市場も大きな大型旅客機から、という流れはほぼ間違いないだろう。ただ、宇宙産業も超小型衛星や小型衛星を何十機、何千機も用いた「衛星コンステレーション」の構想や事業の実現に向けた動きが活発化しつつあるほか、そうした小型の衛星の打ち上げを担う「マイクロ・ローンチャー(超小型ロケット)」のビジネスも起こりつつあり、大きな変化が生じようとしている。民生半導体が宇宙でも一定の活用のめどが立てば、超小型衛星にx86プロセッサを搭載し、仮想化を活用し、今以上に高機能な役割を与える、といったことも可能になるかもしれない。そういった意味ではWind River VxWorks 653 4.0 Multi-core Editionの登場は、航空宇宙分野でのハイパーバイザ活用の契機となる可能性が出てきた。