ニホンウナギ(以下「ウナギ」)は日本でも養殖されているが、これは親に卵を産ませて増やすのではなく、冬から春にかけて黒潮に乗ってやってくる稚魚のシラスウナギを捕獲して育てる。そのシラスウナギが近年、減っている。日本での漁獲量はここ20年ほど、年ごとに大きく変動しながら、年に5~6%のペースで減り続けている。

  • alt

    図1 ニホンウナギの産卵場所と海流。北赤道海流はフィリピンの近くで南北に分かれ、北向きの海流が黒潮につながる。(海洋研究開発機構「黒潮親潮ウォッチ」より)

  • alt

    図2 研究グループによる子ウナギの数の計算結果。5~7月に生まれた子ウナギが、翌年1月時点でどの海域に多いかを示している。赤が多く、緑、青となるにしたがって少ない。2004年に生まれた子ウナギ(左)は、黒潮に乗って日本沿岸に到達しているが、2009年は西向きの北赤道海流がやや南に下がっており、シラスウナギはほとんど日本に来なかった。(宮澤さんら研究グループ提供)

その原因として、ウナギが成長する川の環境悪化や乱獲などさまざまな候補が挙げられているが、一番の原因が何なのかは、よく分かっていない。海洋研究開発機構と日本大学の研究グループがこのほど発表した論文によると、風によって起きる海流の変化も、その候補になりそうだ。海流の流れる強さや位置が昔と今とで違ってしまい、シラスウナギが日本のほうへ流れにくくなっているというのだ。

ウナギは、グアム島の西方、赤道のやや北にある西マリアナ海嶺の海域で産卵する。ここには西に向かう北赤道海流が流れている。この海流はフィリピンの近くで、やがて黒潮につながる北向きの海流と南向きのミンダナオ海流に分かれ、北向きの海流に乗った子ウナギが台湾や日本などに流れてくる。

研究グループが使ったのは、過去の海流を正確に再現したデータだ。子ウナギが流されるような浅い部分の海流は、おもに海上を吹く風が作る。過去の風などのデータをもとに海の流れを計算し、その過程で海面水温などの実測データを使って結果を修正する。これを繰り返して得た海流データは、過去の実際の海流が再現されていると考えることができる。もちろん、北赤道海流や黒潮、ミンダナオ海流も再現されている。この海流データを使い、毎年5~7月に卵からかえった子ウナギがどのように流されて広がっていくかを、1993年から20年分にわたって計算した。

その結果、産卵数はどの年も一定だと仮定したにもかかわらず、日本の太平洋岸に流れ着くシラスウナギの数は、1年あたり5.5%のペースで減っていった。現実の漁獲量の減少と同じペースだ。1993年からの5年間と2009年からの5年間について海流を比較してみると、北赤道海流の西向きの流れが弱まり、子ウナギが黒潮に乗りにくくなっていた。

研究グループの海洋研究開発機構アプリケーションラボ・宮澤泰正(みやざわ やすまさ)ラボ所長代理によると、海流の強弱や流れる位置は、海上を吹く地球規模の風に影響される。実際に海上の風はここ20年ほど、北赤道海流の流量を減らすように変化しているという。子ウナギを運ぶ海流の動きを妨げる文字通りの「逆風」が吹いているわけではないが、すくなくとも、風はシラスウナギに味方してくれていない。では、海上の風はなぜ変化したのか。地球温暖化の影響だという説もあるが、よく分かっていない。したがって、そのうちもとに戻るのかどうかも、分からない。

今回の研究では、シラスウナギの実際の減少率と計算による減少率がくしくも一致したが、宮澤さんによると、この結果は、海流の変化がシラスウナギ減少の唯一の原因という意味ではないという。「年によるシラスウナギの量の変動がこの計算で完全に再現されているわけではなく、たとえばえさの量なども関係しているのかもしれない。ただはっきり言えるのは、最近は、シラスウナギが流れてきにくい海流の状態になっているということです」。そして、黒潮との関係。黒潮が日本の南岸をいったん離れて蛇行すると、付近の水温が変わるので、魚の分布に影響する。魚の不漁はしばしば黒潮の蛇行と結び付けて考えられるが、日本まで流れ着くシラスウナギの数は、蛇行とは関係なさそうだという。

関連記事

「ウナギの仔魚の餌はマリンスノー」