産業技術総合研究所(産総研)は19日、島津製作所と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)を酸化する簡便な方法を考案するとともに、この方法で合成した酸化CNTを用いて、生体透過性の良い第2近赤外(NIR-II)領域で発光する近赤外蛍光イメージングプローブを開発したことを発表した。

この成果は、産総研ナノチューブ実用化研究センターCNT評価チームの飯泉陽子テクニカルスタッフと岡崎俊也研究チーム長(兼)同研究センター副研究センター長らと、島津製作所との共同研究グループによるもので、4月19日(英国時間)、英国オープンアクセス科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

  • 酸化カーボンナノチューブの蛍光とマウスの血管造影の概念図(出所:産総研ニュースリリース)

    酸化カーボンナノチューブの蛍光とマウスの血管造影の概念図(出所:産総研ニュースリリース)

CNTは、蛍光を発することが知られているが、近年、CNTを孤立分散させた水にオゾン水を混和し光を照射して、より高い蛍光量子収率の酸化CNTを合成する方法が報告されている。この酸化CNTは、生体透過性の良い近赤外光で励起でき、NIR-II領域で発光する。しかし、酸化CNTの大量合成ができないなどの課題があり、CNTを簡便に酸化する方法が求められていた。

産総研は、CNT産業の創出を目指し、CNTの大量合成、構造分離、機能性複合材料作製、安全性評価などの基盤技術を開発した。その中で、機能化したCNTの光物性や、分散液中でのCNT分散状態の研究を行ってきており、安定なCNT蛍光イメージングプローブの合成技術を保有している。一方、島津製作所は、可搬型in vivo蛍光イメージングシステムを開発し、NIR-II領域の蛍光を使ったマウスのイメージングアプリケーション開発に取り組んできた。

現在出回っている蛍光イメージングプローブには、毒性があることが確認されているため、無毒または低毒性の新規蛍光イメージングプローブの開発が望まれており、両者は酸化CNTを用いてより高輝度なNIR-II領域の生体内イメージングプローブを開発するための共同研究を行ってきた。

今回、紫外光照射によってオゾンを発生する市販のUVオゾンクリーナーを用いて、CNT薄膜に数分間のオゾン酸化処理を行うことで、酸化CNTを合成する方法を開発した。この手法では、数時間の反応時間を要する従来法に比べ、短時間に多量の酸化CNTを合成できる。また、合成した酸化CNTは近赤外光励起により NIR-II 領域で蛍光を発光するため、近赤外蛍光イメージングプローブとして応用できる。

  • 酸化CNTを生体内近赤外蛍光イメージングプローブとして使用した例(出所:産総研ニュースリリース)

    酸化CNTを生体内近赤外蛍光イメージングプローブとして使用した例(出所:産総研ニュースリリース)

合成した酸化CNTの表面をリン脂質ポリエチレングリコール(PLPEG)でコーティングして 水に分散できるようにし、生体内イメージングプローブとして用いてマウスの血管を長時間高輝度で造影できた。また、免疫グロブリンG(IgG)を修飾したPLPEG(IgG-PLPEG)でコーティングしたところ、免疫沈降(IP)反応により、標的指向性を付与できる可能性が確認できた。

今回開発された酸化CNT合成法は、複雑な装置を必要とせず、数分間という短い反応時間で合成でき、スケールアップが容易であるなどの利点がある。合成した酸化CNTは、生体透過性の良いNIR-II領域で蛍光を発光し、高輝度近赤外蛍光イメージングプローブとして使用できる。さらに、適切な表面修飾を施すことによって、標的指向性を持つ高輝度近赤外蛍光イメージングプローブとしての応用が期待される。産総研は今後、この成果をもとに島津製作所と共同で、高輝度な酸化CNT近赤外蛍光イメージングプローブの実用化に取り組むということだ。