近年、人手不足などの側面から注目されるロボットの活用。公共の場や商業施設に案内用の人型ロボットが設置される例も増えてきたが、より本格的なコミュニケーションを提供するサービスに向けて動き出したのが、人型ロボットの開発で知られる大阪大学・石黒浩教授、サイバーエージェント、東急不動産の3者が取り組んでいる共同研究プロジェクトだ。

本稿では、4月18日に行われた「ホテルにおける人型ロボットを活用した実証実験」の第1回実験結果(3月19日~30日)発表会見の様子をお届けする。

  • 左から、サイバーエージェント(CA) 上級執行役員 内藤貴仁氏、大阪大学 基礎工学研究科 石黒浩教授、東急不動産R&Dセンタ0 取締役副センター長 山内智孝氏。

    左から、サイバーエージェント(CA) 上級執行役員 内藤貴仁氏、大阪大学 基礎工学研究科 石黒浩教授、東急不動産R&Dセンタ0 取締役副センター長 山内智孝氏。CAの人工知能技術研究開発組織「AI Lab」と阪大とが設立した共同講座が、東急不動産ホールディングスと共同でプロジェクトを立ち上げ、実証実験を行っている。

今回の実証実験のポイントは「ホテルにロボットがいると人(顧客)はどのように感じ、反応するのか」。ホテル「東急ステイ高輪」施設内にロボットを設置し、宿泊客に対して声かけ・対話を行うサービスを実施。被験者に依頼してロボットからの働きかけについてのアンケートを回収し、その回答からサービスに対する反響の検討を実施した。

用いられたロボットは、石黒教授が開発に携わった卓上型対話ロボット「CommU(コミュー)」と「Sota(ソータ)」。同ホテルのエレベーター前に2台(コミュー+ソータ)、廊下に1台(ソータ)を設置した。人がロボットの付近を通ると反応し、声をかけたり、2台で掛け合いをしたりしながら、宿泊客に情報を伝える。

  • 実証実験のイメージ図。

    実証実験のイメージ図。来訪を感知するセンサは外部に設置した。

  • システムハード/ソフト構成

    システムハード/ソフト構成

設置する場所における宿泊客の滞在時間を想定し、エレベーターのような待ち時間が長くなることの多い場所では2台の掛け合いを提示することで、ユーザーが返答せずとも間を持たせることができる形式での情報提供を行う。一方、廊下のようにすぐ通り過ぎる場所であれば1台のロボットが直接話しかけ、短時間でのやりとりを行えるようにした。発話シナリオは朝・昼・晩と時間帯に応じて3パターンを展開、設置場所ごとに異なるものを用意した(合計18種類)。

人間に適した情報機器は"人間らしい"ロボット

今回の実証実験について、石黒教授が現代の社会的状況を含めて解説するプレゼンテーションが行われた。昨今のスマートスピーカーの流行を例に挙げ、情報機器のインタフェースが「人間らしい」ものへと変化していることを指摘。人間にとって関わりやすいのは同じ人間であり、情報機器が人間らしくなっていくのは自然な流れであるとコメントした。

  • 卓上型対話ロボット「CommU(コミュー)」と「Sota(ソータ)」

    実験に使われた卓上型対話ロボット「CommU(コミュー)」と「Sota(ソータ)」

  • 阪大・石黒教授が昨今の社会的状況を交え、実験結果を発表した。

    阪大・石黒教授が昨今の社会的状況を交え、実験結果を発表した。

その上で、インターネットによる広範かつ汎用的な情報提供から、利用者のおかれた「場」に応じたローカルな情報提供へと形態が移り変わっていくだろうと予想しており、人の形に似た小型ロボットはこうした情報提供を担う媒体として適しているとした。

そして、ロボットは単に設置するのではなく、情報(コンテンツ)の提供者や場を運営する事業者と協業して、ビジネスとして成立する仕組みとして提供しなくては決して普及しないと明言。今回の実証実験は、最終的に世の中にサービスとして普及させられるだけの仕組みづくりのため行っていると語った。

ロボットだからこそできることは?

石黒教授は、ロボットがサービスを行うにあたっての強みとして、人手不足や顧客の多様化による多言語対応などのほか、「人間ほど存在感が強くない」ことを挙げた。ホテルの廊下での声かけやあいさつをもし人間が行ったら、存在感が強すぎて、利用客が不審に思うなどのデメリットが起こりかねないと指摘。単身予約した宿泊客のさみしさをコミュニケーションで解消しつつ、プライバシー侵害などのデメリットを感じさせない手段として、ロボットによる対話システムは有効だと語った。

  • 第1回の実証実験で行った被験者へのアンケート結果。

    第1回の実証実験で行った被験者へのアンケート結果。「1:そうは思わない」~「7:よくあてはまる」までの7段階尺度で問いを設定し、アスタリスク(*)は「4以下と答えた被験者数」と「5以上と答えた被験者数」の間に1%有意水準において有意差があることを表す。(n=62)

今回の実証実験の成果は「アンケートによる被験者の反響調査」。その結果によれば、ロボットによるあいさつが被験者の気分の向上に優位であり、設置箇所によらずロボットからの働きかけを不快に思う人は少なく、ロボットによるコミュニケーションや情報提供が宿泊者のホスピタリティ向上に有効であるという結果を得たとしている。

今後の開発ロードマップとして、ロボットの対応できる内容を高度化させると共に、ホスピタリティを担保した上で利用者が求める情報を提供できるような広告の提供形態を、サイバーエージェント「AI Lab」と検討していくとした。

  • 開発ロードマップ

    開発ロードマップ。今回発表した実証実験は「レベル1」にあたる。

  • 開発ロードマップのレベルごとに対応した具体的なサービスの例。

    開発ロードマップのレベルごとに対応した具体的なサービスの例。

今回実験を行っているロボットによる情報提供サービスの本格展開について、明確な時期は定まっていないとしながらも、石黒教授は「レベル3までは1.5~2年で到達可能と考えている」とコメント。同プロジェクトの進捗とは別に、東京五輪を契機にロボットによるサービス提供の必要性がより一層認識され、普及が加速していくとの見解も示した。

従来人が担ってきた接客サービスの一部を代替するようなロボット活用サービスの先行事例はあるものの、本格的に「人の代わり」になっている例はないため、このプロジェクトから社会実装可能なサービスを提供したいと語る石黒教授。同実証実験は2度にわけて行われており、4月16日~27日にかけて第2回実証実験が実施されている。その結果を踏まえ、今後の開発で同サービスがどのように変化を遂げ本格提供に向けて進化していくのか、注目していきたい。