マサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームは、アルミニウム酸化膜を十分に薄くすると固体でありながら液体のような挙動を示して、金属表面の微小な割れ目などの欠陥部位を効果的にふさぐ性質があることを発見したと発表した。酸化防止膜・耐腐食用保護膜として使われている酸化膜の性能向上につながるものと期待される。研究論文は「Nano Letters」に掲載された

  • 固体のアルミニウム酸化膜は、十分薄くすることで液体のように振る舞い、自在に変形して金属表面の欠陥を埋めることができる

    固体のアルミニウム酸化膜は、十分薄くすることで液体のように振る舞い、自在に変形して金属表面の欠陥を埋めることができる (出所:MIT)

金を除くほとんどの金属は、空気や水に触れると酸化する。酸化反応は、鉄ならば錆、銀ならば曇り、銅や真鍮ならば緑青となって表れ、経年劣化の原因となる。酸化を防ぐための保護膜としては、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化シリコンといった酸化膜を金属表面にコーティングする方法が昔からよく用いられている。

研究グループは今回、高真空下ではなくガス雰囲気中での試料観察が可能な特殊な透過型電子顕微鏡(TEM)を使って、金属表面のアルミニウム酸化膜が空気に触れているときにどのような挙動をしているかを詳細に調べた。

  • TEMによる観察画像

    TEMによる観察画像 (出所:MIT)

アルミニウム酸化膜は通常、硬く割れやすいガラス状の固体であるため、保護膜にひびが入るとそこから酸素が侵入して金属表面から内部の粒界まで入り込み、材料の腐食劣化の原因となる。しかしTEM観察の結果、アルミニウム酸化膜の膜厚を2~3nm程度まで薄くした場合には、固体でありながら液体のように振る舞うことがわかったという。

金属を引き伸ばすと、金属表面にコーティングされたアルミニウム酸化膜もそれに追従して伸び、金属表面の微小な割れ目を埋めるように変形する。アルミニウム酸化膜を元の長さの2倍まで伸ばしても、千切れたり隙間が開いたりすることがないという。このような液体的な挙動は室温条件下でみられるものであり、薄膜化することでアルミニウム酸化膜の保護膜性能を向上させ、欠陥の自動修復能力をもたせることができるとしている。