Mixed Reality(複合現実 / MR)デバイス「HoloLens」の活用で、海運・海洋産業における人材不足を解消しようとする試みが開始される。

船舶用配電機器などの製造・販売を手がけるJRCSは、日本マイクロソフトと連携し、MRやAI、IoTなどの先端技術を活用した業務効率改善プロジェクト「JRCS Digital Innovation LAB」を開始する。リモートでの船員トレーニングから船舶の自動航行まで、先端技術を活用した業務フローの実現を目指す。

  • HoloLens

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海運業界の人手不足解消にMRを活用

今回発表されたプロジェクトは、JALなどのMR活用事例を見たJRCSの近藤髙一郎 代表取締役社長が、日本マイクロソフトに打診したことから生まれたもの。現在、3つのコンセプトモデルの開発を進めており、実用化を目指して開発を進める。

海洋事業者向け遠隔トレーニングソリューション「INFINITY Training」

  • 「INFINITY Training」

    「INFINITY Training」

「INFINITY Training」は、HoloLensを用いて行う遠隔トレーニングのための仕組み。MRを用いた空間共有、制御システムなどの実製品とデジタルコンテンツの融合、さらにMicrosoft Translatorの翻訳機能を活用することで、言語や時間、距離の壁を越えて、機器やシステムの操作に関するトレーニングに参加できるようなものを想定して開発を進めており、2019年3月からサービスを開始する予定。

同社ではこれまでも船員向けの専門トレーニングを行ってきたが、会場がJRCS下関本社にあるトレーニングセンターとなることから、特に海外の顧客の参加が難しい状況があった。こうした場所の制約を、MRによって解消する試みといえる。

海洋事業者向け遠隔メンテナンスソリューション「INFINITY Assist」

  • 「INFINITY Assist」

    「INFINITY Assist」

「INFINITY Assist」は、エンジニアが船舶のメンテナンスを行う際にHoloLensを装着すると、機器の上に作業手順などが表示されるというもの。MRの業務活用としてはベーシックな内容だ。直近の開発目標としては、同社製高圧配電盤のメンテナンスアプリケーションを2019年内に商品化する予定。2020年以降、他社製の製品も含めたコンテンツの拡大を図り、プラットフォームとして展開していく。

船舶の自動航行ソリューション「INFINITY Command」

  • 「INFINITY Command」

    「INFINITY Command」

「INFINITY Command」は、前出の2つのソリューションと比較すると、少し先の展開を見据えたもの。自動車と同様、自動運行で運用されることが予想される船舶を陸上で集中管理し、船長は地上から「デジタルキャプテン」として複数の船舶をコントロールする世界を想定し、日本マイクロソフトと検証を進める。

デジタルキャプテンは、HoloLensを通じて遠隔地にいる他のデジタルキャプテンと3D海図を共有しながら、航路、天候、海底地形などの情報をAIも活用しながら確認することで、船舶の安全、海上輸送の正確性、効率性を確保できるという。同サービスについて、2030年に開始できるように進行するということだ。

JRCSの近藤社長は、近年は若年層が海運業界での就業を敬遠しがちであるという所感を交え、今回のデジタルトランスフォーメーションによる業務改善プロジェクトにより、そのイメージを払拭するという意欲をのぞかせた。船舶の乗組員には海外の人材が多くなっており、船舶職員も人材不足が懸念されている。JRCSでは、今回のプロジェクトの運営のため、2018年4月に立ち上げたばかりのイノベーション事業について、同社の売り上げ全体の6割程度まで成長させたいとしている。

  • 日本マイクロソフト 平野 拓也 代表取締役社長(左)、JRCS 近藤髙一郎 代表取締役社長(右)

    日本マイクロソフト 平野 拓也 代表取締役社長(左)、JRCS 近藤髙一郎 代表取締役社長(右)