恐竜は爬虫類(はちゅうるい)だ。もちろん今もワニやヘビ、トカゲなどさまざまな爬虫類はいるが、恐竜は今から6600万年ほど前に滅びてしまった。巨大な隕石が地球に衝突したことが原因とされている。滅びてしまったから、恐竜の生態を生きた状態で観察することはできない。だから、今も謎が多い。
大きな謎のひとつは、かなり高緯度の寒い地域にも恐竜がいて、卵をかえしていたらしいことだ。北極圏のシベリアで、卵の化石が見つかっているのだ。卵は冷えると死んでしまう。そんな寒い気候の地域で、無事に卵はかえるのか。暖かい地域の恐竜とは、卵のかえし方にも、なにか違いがあるはずだ。
世界中に分布していた恐竜たちがいろいろなタイプの巣を作って卵を温めていたことは、巣の化石から分かっている。現在のウミガメのように、地面に穴を掘って埋める方法。地面に盛り土をして、その中に卵を入れておく方法。そのほか、鳥のように卵を抱いていた恐竜もいたらしい。これらの方法は、具体的になにがどう違うのか。それが分かれば、恐竜が自分の子を残す繁栄戦略の謎に迫ることもできる。
この疑問に答えるには、今も生きている恐竜の仲間を調べるのが有効だ。ワニの仲間は恐竜の直接の子孫ではないが、「主竜類」と呼ばれる同じ仲間だ。そして鳥類。鳥類は恐竜が進化した直接の子孫で、これも主竜類だ。そこで、名古屋大学博物館で研究している日本学術振興会特別研究員の田中康平(たなか こうへい)さんらの国際研究グループは、ワニや、親鳥が抱卵しないツカツクリという鳥の仲間に関するこれまでの研究を調べた。いずれも、地中や盛り土に卵を産む。その結果、盛り土には植物などの有機物が交じっていることが多く、地面に穴を掘った巣の卵は砂に囲まれていることが多かった。
土に有機物が交じっていると、発酵して熱が出る。畑の肥料にするため牛のふんを積み上げておくと、発酵で発熱して湯気が出るのと同じだ。田中さんらが調べたところ、この発酵熱を使うタイプの巣の温度は、平均すると周囲の気温より7.3度も高かった。一方で、地中に穴を掘って埋める砂タイプの巣には、太陽熱や地熱を利用して温度を上げるものが多く、太陽熱を利用する場合だと、気温より平均で3.9度高かった。発酵を利用するタイプの巣のほうが、卵を温める効果がはるかに高いのだ。
田中さんらは、こうして得られた現在のワニや鳥についての結果を、これまでに見つかっている恐竜の巣の化石に当てはめてみた。たとえば、子どもたちにも人気のブラキオサウルスに代表される首の長い巨大恐竜「竜脚形類」の中には、巣の化石がおもに砂岩から見つかる種類がいて、これは太陽熱や地熱を利用していたらしい。土の発酵熱を使うタイプには、別の竜脚形類やハドロサウルス類がいたようだ。また、鳥のように卵を抱いて温めた可能性が指摘されているオビラプトルサウルス類やトロオドン科の恐竜は、砂にも土にも巣を作っていたらしい。どのみち抱いて温めるので、地面の種類はあまり関係なかったとみられる。
太陽熱を使う砂主体の巣は、あまり加温効果が高くないので、暖かい低緯度から中緯度にかけての地域に向いている。それに対して、発酵熱や地熱を使う巣を作る恐竜や抱卵する恐竜は、極域の寒い地域でも卵をかえせたはずだ。実際に、北極圏のシベリアからは、抱卵や発酵熱で温めていたらしい卵の化石が見つかっている。恐竜が栄えた白亜紀後期(6800万~6600万年前)は、現在より気候が温暖だった。それに加えて抱卵や発酵熱で卵を守ったことで、恐竜たちは北極圏まで進出することができたらしい。「巣のタイプ」は、恐竜がどのように世界に広がっていったのかを考える新たな視点だという。
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