電通国際情報サービス(ISID)でテクノロジーを活用したサービス開発を行うオープンイノベーションラボ(イノラボ)と、東京大学暦本研究室(暦本研)は3月19日に、遠隔コミュニケーションデバイス「TiCA(チカ)」のプロトタイプを共同開発したことを発表。TiCAとZMP社の宅配ロボット「CarriRo Delivery」を組み合わせて、3月20日、22日、23日の3日間、自動走行の実証実験を品川港南エリアで実施した。本稿では実際に品川のオフィス街を走行するTiCAの様子をお届けする。
実験の開始にあたり、ISID イノラボ チーフプロデューサーの森田浩史氏は「これまで自動走行の検証は、『自動でどこまでできるか』という検証が多かったのですが、今回は『人が介入することで本当にサービスを提供できるのか』という現実的なアプローチを行います。エッジケースと呼ばれる想定外の状況に陥った場合に、ロボットが周囲の人とコミュニケーションを図りながら課題解決を目指していき、能力を補完しあいながら新しい世界を実現したいですね」と述べた。
また、東京大学大学院 情報学環教授の暦本純一氏は「今回取り付けた遠隔コミュニケーションロボットのTiCAは、ロボットだけでは解決できないような状況に対して、ネットワークを通じて人とロボットが能力を補完しあうIoA(Internet of Abilities)で解決することをコンセプトとしています。ガンダム型とでも言いますか、人とロボットが一体化することで価値を生み出すインターフェースを作りたいと考えました。ゆくゆくは、AIが簡単な会話を担当し、人間が複雑な会話などを担当するような役割分担ができればと。遠隔のロボットオペレーターという新しい働き方も生まれるかもしれません」と、実証実験のコンセプトを語った。
TiCA、はじめてのおつかいへ
場面は会議室から始まる。ちょうど白熱した議論が一段落し、社員たちはコーヒーブレイクをしようと考えているところだ。
「ねぇ、TiCA」
会議に参加している社員の1人が話しかける。すると、声に反応して、プロジェクターが起動。大きな目のような映像が映し出された。
「コーヒーを注文したいんだけど。ブレンド1つとカフェラテを2つ」
社員がTiCAに向かってオーダーをする。
TiCAが「コーヒー1つとカフェラテ2つですね。かしこまりました」と音声で確認すると、注文完了の画面が表示された。ここからTiCAのおつかいがスタートする。
困難を乗り越えて、コーヒーを届けることができるか
品川にあるカフェの前では、TiCAを搭載した搬送用ロボットのCarriRoがスタンバイしていた。注文を受けたカフェの店員は、TiCAのもとへ商品を受け渡しに行く。店員に気づいたTiCAは「真ん中の扉を開けて商品を入れてください」と元気よく声を出した。コミュニケーション面での心配は不要かもしれない。
コーヒーの納入が終わると、「ありがとうございました」とお礼を言ってから、時速3kmで注文のあった会議室へと動き始める。緩やかながらもしっかりと歩を進めるさまは、つい目で追ってしまう魅力があった。
目の前に人が現れた! そのとき、TiCAがとった行動は……?
「ただいまコーヒーを配送中です」とアナウンスしながら品川港南エリアを進むTiCA。このままなにごともなく目的地までたどり着けるのだろうか。
おっと、そんなことを考えていると、目の前にベビーカーに雨除けを取り付けているお母さんが現れた。どうする、TiCA――。
固唾を飲んで見守っていると、TiCAはゆっくりとスピードを落とし、およそ2mほど手前で停止した。そして、やわらかな口調で「すみません。通していただけますか」と声をかけたのだ。TiCAに気づいたお母さんは、「ちょっと待ってもらえますか」と、急いで作業を進めてから、TiCAに道を譲ってくれた。
巧みなコミュニケーションでエレベーターに搭乗せよ
無事にオフィスまでたどり着いたTiCAだが、会議室があるのは19階。ロボットだけでたどり着くのは困難だ。しかも、エレベーターに乗るまでにはセキュリティゲートを突破しなければならない。いったいどうするのだろうか。
相変わらず「ただいまコーヒーを配送中です」と声を出しながら、オフィスのロビーへ入ってきたTiCA。ロビーで社員を見つけるや否や、なんと、「すみません、セキュリティカードでドアを開けていただけますか」と、物怖じすることなくお願いし始めたのだ。もちろん、一生懸命コーヒーを運ぶTiCAのお願いを無下にすることはなく、社員の男性はすぐにドアを開けてくれた。さらに、TiCAはそのまま「エレベーターで19階を押していただけますか」と依頼する。ロボットが周囲の人とコミュニケーションを図ることで課題を解決できた瞬間だ。
オフィスの通路を抜け、ついにTiCAは会議室の前までたどり着いた。注文した社員が受け取りに来ると、「真ん中のドアを開けてコーヒーを取り出してください」と伝える。TiCAは最後まで手を抜くことなく、きっちりと仕事をこなす。
人通りの多い品川のオフィス街を自動走行し、コーヒーを運ぶことに成功したTiCA。大きなポテンシャルを見せてくれたのではないだろうか。もしかすると数年後には、TiCAが道を行き交う光景があたりまえのものになっているかもしれない。