三井不動産とシスコシステムズ(シスコ)は3月20日、救命の仕組みを作るスタートアップCoaido(コエイド)とともに、ICTを活用した安心・安全の街づくりを目指す実証実験を実施。同実験は、救命率向上を目指しカメラ・AIやネットワークシステム・救命アプリを連携させて、街全体で「救命の連鎖」をつなぐ日本初の試みだという。実験の現場を取材する機会を得たので、本稿ではその様子を紹介する。
心停止は救急隊到着までの10分が生死を分ける
今回の実証実験について、シスコシステムズ 専務執行役員の鈴木和洋氏は「シスコと三井不動産はICTを活用した安全・安心なまちづくりの実現を目指し、2017年12月『日本橋室町エリア防災高度化実行委員会』を設立。今回、委員会の趣旨に賛同いただいたCoaido、クリューシステムズ、日本橋室町エリアマネジメントの参画を賜った。超高齢化社会の日本では、突然倒れてしまう人が増えている。しかし、常に警備員がチェックできるとは限らない。ICTを活用することで、卒倒する急病人を迅速に見つけて必要な処置を施せるようにしていきたい」と、今回の実験に至った背景を語った。
またCoaido 代表取締役 CEOの玄正慎氏は「心停止後は応急手当をしなければ、救命率は毎分約10%ずつ低下していくと言われている。救急車の平均到着時間は約8.5分。その間、現場に居合わせた人が正しい救命処置ができないと救命が絶望的になってしまう。AEDも完全に停止した心臓には効果がない。実際、日本では年間7万5109件もの心停止が発生しているが、そのうち生存者はわずか3008件。また、倒れた瞬間を目撃されずに処置が大幅に遅れてしまうケースが、発生件数の58%である4万3789件にも及ぶ。今回の実験では監視カメラとAIを組み合わせて目撃者のいない卒倒者を自動検知し、Coaido119アプリで周囲にいる医療資格者や救急関連資格保持者へ協力要請をすることで、救命率を高めていきたい」と、実験の意義を伝えた。
ICTの活用で心停止した急病人へ迅速な処置を
今回の実験は、東京・日本橋にある商業施設「コレド室町1」の建物内で行われた。エントランスに心肺停止状態の人が現れた場合を想定。設置された監視カメラにはAIが搭載されており、急病人の卒倒を判断し、チャットやファイルの共有が可能な「Cisco Spark」を通じて建物の管理者(防災センター、巡回管理要員)へ通知する。
通知を受けた防災センターでは、Wi-Fiによって巡回中の管理要員や防災センター人員の位置を把握するとともに、最も近い人に対して現場へ向かうよう指示を出す。大画面の「Cisco Spark」ではエントランスの様子を確認しながら、管理要員とテレビ電話を通じてコミュニケーションを図る。並行して、事前登録した医療有資格者や救命講習受講者、AED設置者などに救命ボランティアを要請できるアプリ「Coaido119」を通じて、119番通報するとともに防災センターから一般の救命スキル保持者への支援も要請する。
最初に到着した巡回管理要員が急病人に対して心肺蘇生を続けていると、「Coaido119」の要請を受けて、救急救命士の資格を有する一般の来街者が駆けつけた。管理要員と心肺蘇生を交代し、発見時の状況などを共有。防災センターから指示を受けたほかの管理要員がAEDを持って到着し、複数人で救護活動を続ける。一方、防災センターでは、卒倒や心肺蘇生開始などの時刻を「Cisco Spark」にまとめておく。この画面は現場で救護活動を行う管理要員と共有できるので、スムーズで正確な情報伝達が可能なのだ。
卒倒からおよそ9分30秒。コレド室町1に救急隊が到着した。管理要員が「Cisco Spark」を活用して現場の状況を伝達するとともに、誘導を行う。ストレッチャーに急病人を乗せたところで今回の実験は終了した。
救急救命士の資格を保有する一般ボランティアの指示のもと、的確な救命活動が行われたことで、「何もできないまま救急隊を待つ」という状況は回避されたといえるだろう。
実験に参加した各社は、今後も協議・協働を推進しつつ、日本橋で行う同実証実験をモデルケースとし、得た知見を活かしてほかの街での救命率を上げることにも取り組んでいくとしている。