米Maxim Integratedは3月21日(米国時間)、同社のHimalayaシリーズパワーモジュールに、外寸が3mm×2.6mm×1.5mmという、ほとんど米粒大の「uSLIC(Micro System-Level IC)」を追加した。この新しいuSLICについて、同社のAnil Telikepalli氏(Exective Director, Business Management, Industrial&Healthcare)に詳細について伺うことが出来たので、同製品の内容を紹介したい。

最近は電力管理が非常に重要なマーケットになっているのはご存知の通り。2017年にルネサス エレクトロニクスがIntersilの買収を完了したが、これもIntersilのPMIC技術が欲しかったからだし、似たような話は多数ある。もちろんMaximのようなアナログICを中核とした半導体ベンダにとってもこうした市場重要であるが、昨今少し様相が変わってきたのは、より小型化したソリューションが欲しいということだという(Photo01)。

  • 電源に求められる要件は年々厳しくなっている

    Photo01:単に容積削減だけでなく、Thermal Budgetもだんだん厳しくなる

こうした市場は現在、まだ従来型のアナログ電源に比べると小さいものの、急速に伸びているとする(Photo02)。具体的には、Photo03のような市場で高効率なスイッチング電源が必要とされる、とする。

  • アナログ電源市場に比べて、スイッチングレギュレータ市場はまだ小さいものの、市場成長率は高い

    Photo02:ラフに言えばまだアナログベースがスイッチングレギュレータの2倍、というのはちょっと意外な数字だった

  • スイッチングレギュレータの活用市場イメージ

    Photo03:「Distribution automationだけは違うんじゃないか?」と突っ込んだところ、写真はアレだが、対象とするのは数千Vの高圧電源の設備ではなく、100~200V程度の電源設備との話。この写真のような設備だと、どうみてもSiCの出番である

さて、こうした市場に向けて従来からさまざまなパワーモジュールが各社から提供されているわけで、技術的な差別化の要素は小型・高出力・高信頼性といったあたりになるのはある意味当然である(Photo04)。Maximはここに向け、従来からHimalayaシリーズと呼ぶパワーモジュールを提供してきた。

  • 小型のパワーモジュール化は、すべてのコンポーネントの精度を向上させることで実現されるため、モジュールとしての高効率化などを実現可能

    Photo04:1パッケージ化は単に小型化だけでなく、すべてのコンポーネントの最適化を図ることで精度を引き上げ、トータルでの効率向上を図る事にもつながる

  • MaximのHimalayaは、パワーモジュール以外の製品にも使われている

    Photo05:ちなみにHimalayaは単にパワーモジュールだけでなく、ステップダウンスイッチングレギュレータにもその名前が使われており、ちょっとわかりにくい

さて、ここまでが話の枕である。今回Maximが発表したのは、このHimalayaシリーズに属する新しいパワーモジュール。省サイズ、高効率でCISPR 22準拠といった特徴を持つ(Photo06)。

  • CISPR 22はEMCのうちエミッション規格をまとめたもの

    Photo06:CISPR 22はEMCのうちエミッション規格をまとめたもの。もっともCISPR 22は6.0版でメンテナンスを終了し、今後はCISRP 13とあわせてCISPR 32に一本化されることになっている。ただ、たとえば日本のVCCIも現状はCISPR 22をベースに策定されている

具体的には、uSLICと呼ばれる超小型パッケージでの提供となる(Photo07)。実物を見せてもらったが(Photo08~10)、電源モジュールとは思えない小ささである。

  • SiP、uSLICのパッケージサイズの違い

    Photo07:左の写真、一番上が従来のSiPで、中段がuSLIC用のランド、下段がuSLICのパッケージである

  • 10円玉と比べたuSLICパッケージのサイズ比較

    Photo08:大きさのイメージが湧きにくいので、10円玉を並べてみた。このサイズにインダクタまで統合しているのがちょっと信じられなくて、Telikepalli氏に「本当にインダクタまで入っているのか?」と再確認してしまうほどの衝撃であった

  • uSLICのランド側の写真

    Photo09:ランド側。電源ICとは思えない微細なもので、逆に心配になる

  • uSLICのランド部の拡大画像

    Photo10:uSLICのランド部を拡大。同席していた向笠哲生氏(マキシムジャパン プリンシパルFAE)によれば「それでも一応配線は0.5mmピッチは確保しています」との事

内部構造はやはりSiPらしいが、パッケージの高さも1.5mmまで減じており、かなり小さなものの中にも入れられる事になる。実際に同社が例として出してきたのが、近接センサ内部への統合(Photo11)である。これは光を利用した近接センサだが、ある程度インテリジェンス化を進めるには単にフォトダイオードだけでなくアンプやMCUなどを統合していきたいというニーズが存在する。しかし、そうなると、どうしても電源レギュレータを搭載する必要がでてくる。こうした話は、さまざまな産業分野で存在し、超小型のインテリジェンスセンサ類が今後普及してゆく事を念頭に、今回MaximはuSLICを投入したという形だ。

  • uSLICは小さな基板にも十分対応可能

    Photo11:センサそのものは直径1cm程度の筒状のもので、その中に細長い基盤が入っている訳だが、こうした小さな基板にも十分実装できる

  • uSLICを活用することで、電源電圧24Vを3.3V/5Vに降下することができる

    Photo12:電源そのものはIO-LINK経由で24Vが提供されるので、これを内部回路が利用する3.3Vなり5Vなりに落とすためにuSLICが活躍することになる

今回発表されたのは、出力電圧100mAの「MAX17532」と、300mAの「MAX17462」をベースにした「MAXM17532」と「MAXM17462」で、どちらも4/4.5V~42Vの入力電圧に対応した製品である。Photo13の右にリファレンス回路が掲載されているが、最小限の外部部品で実装可能である。CSIPR 22への対応も良好(Phoot14)という話であった。

  • 出力電圧は0.8~37Vの範囲

    Photo13:出力電圧は0.8~37V(MAX17532)または0.9~37V(MAX17462)。プリセット電圧は3.3Vで、これ以外の電圧が必要な場合はFB(Feedback)端子で制御となる。ちなみに、MAX17532/MAX17462がDC/DCコンバータ単体、MAXM17532/MAXM17462がSiPモジュールである

  • MAXM17532の実測値

    Photo14:黒が規制値、赤が実測値で、規制値よりもずっと低いレベルを保っているとする

ちなみにTelikepalli氏によれば、今回のスペックはあくまでも最初の製品向けであって、今後、より高い電圧やより低い電圧に対応した製品の拡充を図って行きたい、との事。また技術的に言えば、今回のuSLICのアーキテクチャで最大2~3Aまでの出力は可能だと思う、としていた。もっともそうなると、まず配線をもう少し太くするなどの改良を施さなければ実用が難しいと思うので、現在のパッケージのままかどうかは怪しいと思われる。ちなみに、すでにリードカスタマへの出荷は開始しているとの事であった。

  • uSLICモジュール拡大図

    Photo15:uSLICモジュール拡大図。恐らく上に載っている部分がインダクタンスと思われる

  • MAXM17532の評価キット

    Photo16:MAXM17532の評価キット

  • MAXM17462の評価キット

    Photo17:MAXM17462の評価キット