京都大学は3月16日、硝酸イオンの窒素酸素安定同位体測定技術を使って、ツンドラ植物にとっての硝酸イオンの重要性を明らかにしたと発表した。
同成果は、京都大学 生態学研究センター 木庭啓介 教授、情報学研究科 小山里奈 准教授、天津大学 XueYanLiu 教授、森林研究・整備機構森林総合研究所四国支所の稲垣善之 主任研究員、酪農学園大学の保原達 教授らの研究グループによるもの。詳細は米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」にオンライン掲載された。
ツンドラ生態系は極地域に広がる生態系で、植物や微生物が利用できる窒素が特に少ない生態系として知られている。これまで、植物の窒素源はどの形態の窒素であるかについて研究が行われてきた。
植物が利用できる窒素はアンモニウムイオン(NH4+)や硝酸イオン(NO3-)と考えられてきたが、90年代に溶存有機態窒素(DON)が重要な窒素源であることが明らかになった。この大きな発見もあって、植物の窒素源判定に関する研究はその後DONとNH4+に集中し、もう1つの窒素源であるはずのNO3-については、ツンドラ土壌では生成されず、植物にとって重要ではないと考えられていた。
そこで今回の研究グループは、「ツンドラ生態系ではNO3-も重要な窒素源ではないか? 土壌中でNO3-は生成されると同時に消費されているだけで「見えない」だけではないか? 」という仮説を立て、濃度・同位体比測定技術を用いて検証を行った。
その結果、土壌中でのNO3-生成(硝化)があり、その硝化で生成されたNO3-をツンドラ植物が吸収同化しているということが明らかになった。ツンドラ植物にとって見えないNO3-が実は重要な窒素源であったことが示唆されたとしている。
なお、今回の成果を受けて研究グループは、今後は物質の動きを同位体などの手法を用いて追跡するだけでなく、植物や微生物の応答の方からも物質のやりとりを見ることで、今まで見えなかった生物と環境の間での窒素のやりとり、その結果の窒素循環というものがより深く理解できるようになると期待されるとしている。