アクセンチュアは3月13日、企業が生活者視点で製品やサービス、新規事業などをデザインする上で、抑えるべき7つのトレンドを定義したレポート「FJORD TRENDS(フィヨルド・トレンド)2018」の日本語翻訳版を発行したことを発表。併せて、7つのトレンドについての説明会を開催した。

今回のレポートで取り上げられた7つのテーマは以下のとおり。

  1. フィジカルが反撃に
  2. コンピューターにも目が
  3. アルゴリズムのとりこ
  4. 機械による意味の探究
  5. 透明性への信頼
  6. 倫理経済
  7. 枠を超えたデザイン
  • フィヨルド・トレンド2018で取り上げられた7つのトレンド
  • フィヨルド・トレンド2018で取り上げられた7つのトレンド
  • フィヨルド・トレンド2018で取り上げられた7つのトレンド

デジタルとフィジカルは相反する存在か?

2013年にアクセンチュア インタラクティブの傘下入りしたフィヨルドが同レポートで定義している「デザイン」は、ビジュアル的なものではなく、今後の社会にどのようなサービスやビジネスがテクノロジーをベースとして生まれてくるか、という意味合いのもの。7つのトレンドに共通するテーマが「テンション(対立構造が生み出す緊張関係)」となる。

対立構造としては、「デジタル」と「フィジカル」という2つのキーワードがデジタライゼーション(デジタル化)を背景として近年、取り上げられるが、この2つは対比で見れば、確かに対立しているように見えるが、実は協調したものでもある。1つ目の「フィジカルが反撃に」がそれを端的に表現した言葉となる。従来はスマホなどのディスプレイを介して何らかの体験をユーザーは得ていた。しかし、IoTの普及により、カメラやセンサが至る所に配置されるようになれば、それらがタッチポイントとなり、生活者がサービスを活用する社会が訪れることが想像される。そうなれば、サービスの提供者も、スマホの画面だけをUIとして提供すればよい、というわけではなくなる。すでにAmazon Goにより、店舗で買い物をする際に、レジに並ぶ、という作業を不要にできることが示された。こうした「スーパーフィジカル」と呼ばれるデジタルと現実世界(フィジカル)を融合させたサービスは、まだ極端な例だが、2018年は、デジタルとフィジカルの境目がなくなり、生活者に新たなサービスや利便性を提供することが可能であることが示される年となるという。

  • 第1のトレンド「フィジカルが反撃に」の概要
  • 「フィジカルが反撃に」に対するフィヨルドの提案
  • 第1のトレンド「フィジカルが反撃に」の概要と、それに対するフィヨルドからの提案

AIの進化がもたらす未来

こうしたデジタルとフィジカルの境目を無くすことを可能とするのがデジタル技術の進化だ。特にディープラーニングの登場以降、コンピュータビジョンの発展は目覚しく、何が写っているのか、撮影された後のデータも含め、膨大なデータを識別できるようになってきた。また、ディープラーニングは画像認識以外のAI(人工知能)分野にも進化をもたらした。その行き着く先の1つに、新たな販売チャネルとして音声チャネル(スマートスピーカー)の登場がある。2018年は、そうしたスマートスピーカーが生活者と企業の間に入るゲートキーパー(門番)の役割を担う可能性があるという。

ゲートキーパーとしてのアルゴリズムを搭載したスマートスピーカーは、生活者に対し、安全な情報を提供するほか、企業から生活者にアプローチがある際も、文字通り、門番として立ちはだかり、生活者に有用な情報か否かを判断する世界が到来すれば、企業は、こうしたゲートキーパーをどうやって味方につけるかを知る必要が出てくるほか、新たなマーケティング環境の理解を進めていく必要があるという。

その先にあるのが、機械による人間の代替だ。こうした話がでると、常に人間の仕事を機械が奪う、という話になるが、現在のAI活用の方向性としては、人間の判断を支援する使い方が多く見受けられる。例えばハーバード大学の研究チームは、がん細胞の検出を可能とするAIを開発。その検出精度は92%で、人間の医師による識別は96%であった。これだけ見れば、人間の方が優秀、という話になるが、現在の論点は「人と機械が協業するにはどうすれば良いのか」というものであり、AIと人間が協働した場合、検出精度は99.5%まで高めることができたという。こうした人だけでも、AIだけでもできない新たな価値の創出が今後、数多く登場する可能性があるが、そのためには、AIと人間がうまく付き合って行くための方法、例えば人の解釈をAIに伝える、またはその逆を実現するインタラクションを念頭にデザインを行う必要性や、そのための意思決定に用いられるアルゴリズムの透明性の確保などが必要になるとアクセンチュアでは説明している。

  • 第2のトレンド「コンピューターにも目が」の概要
  • 第2のトレンド「コンピューターにも目が」の今後の展望
  • 第2のトレンド「コンピューターにも目が」の概要と、今後の展望

  • 第3のトレンド「アルゴリズムのとりこ」の概要
  • 第3のトレンド「アルゴリズムのとりこ」の今後の展望
  • 第3のトレンド「アルゴリズムのとりこ」の概要と、今後の展望

  • 第4のトレンド「機械による意味の探究」の概要
  • 第4のトレンド「機械による意味の探究」の今後の展望
  • 第4のトレンド「機械による意味の探究」の概要と、今後の展望

デジタルの信頼性を担保するブロックチェーン

デジタル化が進む世界では、情報の出所やその情報を誰が生み出し、更新したのかを特定することは困難となる。そうした情報が本物か偽者か、そうした信頼性を担保する技術として「ブロックチェーン」が2018年は、多くの場面で活用されることになるとアクセンチュアでは見ている。ブロックチェーンというと、FinTechや仮想通貨といった金融分野というイメージが強いが、身分証明や権利保護、電子投票の安全性などでも活用が進められており、組織はすぐにでも、情報に透明性をもたらすブロックチェーンの可能性と将来的な役割を理解する必要があるとする。

また、そうした新たな技術によって、従来以上にさまざまな人、モノ、情報などがつながるようになった社会において、企業は、さまざまな社会的なものも含めた問題に対するスタンスを明確化し、情報として先手を打って発信する必要性が高まるとも指摘している。特に米国では、この一年で、そうした風潮が高まっており、同社では企業に対し、従業員とともに、自身の組織の人的資本にもたらす貢献価値を定義する必要があると指摘している。

  • 第5のトレンド「透明性への信頼」の概要

    第5のトレンド「透明性への信頼」の概要

  • 第6のトレンド「倫理経済」の概要

    第6のトレンド「倫理経済」の概要

ビジネスの世界に持ち込まれるデザイン

デザインシンキングという言葉があるが、Forbes Insightの調査によると、経営層の39%がデザインシンキングの主要な考え方を取り入れているというが、アクセンチュアでは、そうした多くの人に受け入れられた結果、初心者と専門家の境界があいまいになってしまい、その本質を理解している人を見分けることが難しいという問題が生じていると指摘する。

例えばアジャイルの活用によるスピードの向上を目指す一方で、指示が細かくなれば、デザインに対する制約は高まることになる。また、フラットデザインのような流行りに対しても、独自性を欠いた新鮮味のない、どこかで見たことがあるようなデザインに落ち着くという残念な結果に陥る場合もあるという。

デザインドリブンのアプローチを確実かつ意義のある存在にするためには、デザインの分野も進化する必要があるとアクセンチュアではしており、そのために組織は、「デザインのこだわり」、「デザインのプロセス、ツール、チーム」そして「デザインスキルの幅」の3つの柱を見直し、それらに注力していく必要性を強調する。また、デザインは問題解決のための重要なツール、かつ重要な差別化要因になるともしており、開発におけるデザイナーの役割をより明確化すること、そしてデザイナーがデジタルとフィジカルの双方を理解し、デザインスキルの向上に向けて学習し、ある種の作品のようにこだわりを持ってデザインを提供していく必要があるとする。

  • 第7のトレンド「枠を超えたデザイン」の概要
  • 第7のトレンド「枠を超えたデザイン」に対するフィヨルドの提案
  • 第7のトレンド「枠を超えたデザイン」の概要とフィヨルドからの提案

なお、同社では、すでにこうしたトレンドを踏まえて、パートナー企業などとさまざまなサービスの開発を進めているとしており、例えば2018年には、ディスプレイで表示される情報のみならず、実世界でもサービスが提供されたり、ゲートキーパーアルゴリズムを搭載したスマートスピーカーが、生活者の味方になる形でのサービス提供の実現、企業1社のみでは実現できないことを、他の企業や地域、自治外、政府などと連携して、新たなサービスとして創出し、社会問題の解決につなげることなどの実現が期待できるとしている。