東京大学大学院教育学研究科付属学校教育高度化・効果検証センターと同大教育学部付属中等教育学校(東大付属)、富士通、富士通研究所の4者は3月13日、都内で記者会見を開き、アクティブラーニングにおける生徒の活動過程を見える化し、授業の活性化につなげる共同実証実験を開始すると発表した。
今回、富士通研究所が開発した部屋全体をデジタル化する空間UI技術を用いてアクティブラーニングにおける生徒の活動の見える化を行う共同実証実験を東大付属の授業において4月10~2019年3月20日まで「東大付属DeAL教室」で実施する。
東大付属の3~4年生(東大付属は前期課程の1~3年生、後期課程の4~6年生の6年中高一貫教育を採用)を対象とした「課題別学習」の授業を予定し、協働学習における生徒間、および教員と生徒間のコミュニケーションの流れを見える化することで、最終結果を導いたプロセスを把握する。
そこから、最適なグループ人数や生徒の特性を活かしたグループ編成、授業の進め方、教員の指導など、協働学習に対する新たな評価手法を発見するという。
主体的・対話的で深い学びを得るために
東京大学大学院教育学研究科長・教育学部長の小玉重夫氏は「2020年に大学入試センター試験が廃止され、高度成長期で続いてきた受験体制が大きく変わる。また、文部科学省でも学習指導要領を改訂し、これまでの知識・技能取得に特化した学校教育を、より広く考え、主体的・対話的で深い学び、いわゆる『アクティブラーニング』の視点から教育の方法や内容を方向性として示している」と、今回の実証実験の背景について触れた。
こうした動きは、学校教育が受験準備のための場としてのみ存在してきた在り方を変え、学校教育で身に付いた力を使って実際の社会に出たときに活躍・行動できる資質につなげるため、アクティブラーニングに取り組むという。
空間UI技術は、壁や机などの共有スペースを丸ごとインタラクションスペースとして構成し、スマートデバイスからの持ち込み資料やデジタル付箋に書いたメモを大画面で共有することで参加者が顔を上げた状態で議論することができる技術。
これにより、部屋の壁やテーブルをはじめ、あらゆる場所がインタラクションスペースとすることを可能にするほか、持ち込んだ端末をすぐに利用でき、インタフェースを電子ペンで手書きで行うことから、直感的に利用できる。
実証実験を行う東大付属DeAL教室は、テーブル3台、壁スクリーンの4面構成とし、それぞれにユニットPCとプロジェクター、カメラ、センサの組み合わせがあり、これらをベースPCが全体制御、端末連携を行う。センサは天井から生徒の活動を認識し、データ化することを目的に搭載し、データを蓄積するためのデータPCを備える。
ダッシュボードには、テーブルで頻繁に使われていたカ所を示すアクティビティマップを表示するほか、シーリングカメラで映像として記録できる。さまざまなイベントを時系列で操作履歴を表示し、イベントが密であればあるほど活動が活発であることが分かり、カーソルを置くと映像を確認することを可能としている。
授業で生徒がスマートデバイスで調べた内容やデジタル付箋に書いたメモ、それに対する作成・操作について時系列に収集することで、いつ、だれが、どのような内容を発信し、それに対してグループメンバーはどう動いたかを見える化する。
教員は、蓄積したデータを活用し、授業中のどのような生徒の行動がグループを良い結果に導いたか、どのようなチーム編成が的確か、教員と生徒のコミュニケーション履歴から教員の指導が適切だったか、といった振り返りを行い、協働学習の活性化を図る。また、取得したデータを分析し、コミュニケーションを改善する技術の開発とその有効性についても検証する。
富士通 文教ソリューション事業本部長の中尾保弘氏は「AIやIoT時代を迎え、社会の急激な変化があり、人の創造性と情報の融合による新しい価値を生み出す能力が求められている。一方で、従来の知識・技能に加え、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力、人間性の育成をはじめ、これまでにはない領域を養うためには、アクティブラーニングが有効だ」と、説く。
しかし、アクティブラーニングを実施する上では2つの課題があるという。1つ目はアクティブラーニングの手法やグループワークについて客観的な評価が難しいこと、2つ目は思考力・判断力・表現力など新たな能力の評価方法が確立されていないことだという。
同氏は「狙いとしては、空間UI技術で協働学習における教員や生徒のコミュニケーションを見える化し、次の授業につなげる。これにより指導方針の策定を手助けし、最終的には生徒のクリエイティブな能力を成長させていければと考えている。ICTを活用したアクティブラーニングの新たな手法の確立と、データ活用による教員支援・評価支援の検証を行う」と、意気込みを語った。