東京大学(東大)は、次世代シーケンスを用いた4生物の全ゲノム解読でボルボックスのオスとメスが誕生した直前と直後に相当する生物の性染色体領域の全貌を明らかし、オス特異的遺伝子「OTOKOGI」をもつ極小の領域「OSU」を発見したと発表した。同成果により、「OTOKOGI」の進化が最初のオスを生み出す原因であった可能性が示唆されたという。

同成果は、東京大学 大学院理学系研究科生物科学専攻の浜地貴志 元特任研究員(現:京都大学 理学研究科植物分子遺伝学研究室 特定研究員)、豊岡博子 特任研究員、野崎久義 准教授、および国立遺伝学研究所の豊田敦 特任教授らの研究グループによるもの。詳細は、ネイチャー・リサーチのオープンアクセス誌「Communications Biology」に掲載された。

生物学において、どのようにして最初のオスとメスが誕生したかは謎に包まれていた。

オスとメスは「同型配偶」という両性の配偶子が未分化な祖先生物から進化したと考えられており、この原因は両性で遺伝子組成の異なる「性染色体領域」がオス・メスらしさをもたらす遺伝子群を獲得して拡大することと予想されていた。しかし、どのような遺伝子の獲得であったかはこれまで不明だった。

研究グループは今回、性進化のモデル生物群「緑藻ボルボックス系列」の次世代シーケンスを用いた全ゲノム解読を実施し、オスとメスが誕生した直前と直後に相当する生物の性染色体領域の全貌を明らかにした。

  • 性進化のモデル生物群「緑藻ボルボックス系列」の系統関係と「同型配偶」と「異型配偶」の進化を橋渡しする「ヤマギシエラ」と「ユードリナ」

    性進化のモデル生物群「緑藻ボルボックス系列」の系統関係と「同型配偶」と「異型配偶」の進化を橋渡しする「ヤマギシエラ」と「ユードリナ」。今回は次世代シーケンスで新規全核ゲノムを4個構築した (著者原図) (出所:東京大学Webサイト)

その結果、オスとメスの進化の最初では性染色体領域は拡大せず、最初のオスは極小の性染色体領域 「OSU」をもっていたことが示唆された。また、「OSU」 がもつ性特異的遺伝子「OTOKOGI」の進化が最初のオスを生み出す原因であった可能性が示唆された。

  • 次世代シーケンスによる新規全核ゲノムデータの比較解析から明らかになったオス・メスを獲得した直後の生物に相当するユードリナのオスの極小性染色体領域「OSU」

    次世代シーケンスによる新規全核ゲノムデータの比較解析から明らかになったオス・メスを獲得した直後の生物に相当するユードリナのオスの極小性染色体領域「OSU」。わずか約7千塩基対(7kbp)の長さしかなく、1個のオス特異的遺伝子「OTOKOGI」が位置する。一方、メスの性染色体領域は約9万塩基対(90kbp)の長さで、1個のメス特異的遺伝子「FUS1」をもつ。FUS1はボルボックス系列の同型配偶の交配型プラスの性特異的遺伝子でもあり、配偶子接着に関与することが知られている。(著者原図、一部は発表論文から改変) (出所:東京大学Webサイト)

これらの成果に関して研究グループは、「オスの始まりは 小さな性染色体領域「OSU」に位置する1遺伝子の機能進化だけで起きた可能性が示唆された。今後、「OTOKOGI」遺伝子および同型配偶のMID遺伝子を用いた機能の比較解析や、同遺伝子の下流遺伝子群の比較研究が期待される」とコメントしている。

  • オス・メスの進化と性染色体領域(MT)の関係

    今回の研究で明らかになったオス・メスの進化と性染色体領域(MT)の関係。同型配偶の交配型マイナスは「OSU」のような「OTOKOGI」をもつ極めて縮小した性染色体領域を基盤にオスに進化した可能性が示唆された (出所:東京大学Webサイト)