国立遺伝学研究所は3月9日、ストレス耐性などにかかわる転写因子「Mbf1」が転写促進活性とは異なる新たなメカニズムによってポリコーム抑制やストレス防御に関わっていることを見出したと発表した。

  • 2つの顔を持つMbf1 (出所:国立遺伝学研究所Webサイト)

同成果は、情報・システム機構国立遺伝学研究所の広瀬進 名誉教授らのグループと佐賀大学医学部の西岡憲一 講師らのグループの共同研究によるもの。詳細は英国の科学誌「Development」に掲載された。

Mbf1は主として細胞質に存在して、アミノ酸飢餓、酸化、熱ショック、細菌感染などさまざまなストレス条件下で核に移行し、転写制御因子の補助因子として働き、ストレス応答遺伝子群を誘導することがわかっていた。

Mbf1の転写活性化因子としての働きは、さまざまな種において保存されていることがわかっていた。しかし、ストレスがない時のMbf1の細胞質での役割はわかっていなかった。

今回の研究では、Mbf1が転写促進活性とは異なる新たなメカニズムによってポリコーム抑制やストレス防御に関わっていることを見出した。

細胞には、パックマンと呼ばれる「悪役」酵素が存在し、メッセンジャーRNAを分解している。このメッセンジャーRNAにMbf1が結合し、パックマンによる分解からメッセンジャーRNAを守っていることが判明したとしている。

また、Mbf1によって守られているメッセンジャーRNAが作るタンパク質には、パックマンの発現を抑えるポリコーム抑制やストレス耐性にかかわるものなどがあったという。

これらから、Mbf1は、ポリコーム抑制を強固にすると共に、「ストレス耐性遺伝子の転写の促進」と「メッセンジャーRNAの分解抑制」という2つの機能によってストレス防御を制御していたと研究グループは説明している。

今回の成果を受けて研究グループは、Mbf1は長寿との関係が示唆されていることから、今後、長寿の仕組みを理解するための糸口となり、ヒトの健康寿命延長の研究の基盤になることが期待されるとしている。