京都大学は3月8日、ヨルダンの乾燥地域において洪水を灌漑用水に変えるシステムのプロトタイプを構築し、厳密な数学的根拠に基づく最適戦略による貯水池の運用を開始したと発表した。
同成果は、同大農学研究科の宇波耕一 准教授、ムタ大学(ヨルダン)のOsama Mohawesh 教授らの研究グループによるもの。詳細は国際学術誌「Stochastic Environmental Research and Risk Assessment」」に掲載された。
世界全体に広く分布する乾燥地域においては、外来河川や化石地下水への過度の依存や塩類集積といった問題が顕在化し、過酷な環境における限定的な水資源を有効利用した灌漑農業の確立が課題となっているほか、近年、そうした乾燥地における突発的洪水による被害が拡大していると言われており、これらの課題に対処可能な灌漑システムの構築が求められていた。
研究グループは今回、砂漠の洪水を収集して貯水池に蓄え、灌漑用水に変換するシステムを提案し、そのプロトタイプをヨルダンの乾燥地域に実際に構築した。同プロトタイプは、水理学や水文学、特に数値流体力学の知見に基づいて設計、施工が行われたという。
また、開発にあたっては、貯水池の最適管理戦略を考えるため、動的計画法にもとづいて最適制御問題を定式化。同プロトタイプの環境条件下においては、偏微分方程式の「粘性解」が1つだけ存在することを証明したほか、コンピュータを用いた計算の結果、貯水池を最適管理するためのルールカーブ(取水制限を行う管理目標水位)を求めることができたとしており、これにより研究グループは、乾燥気候下にあるプロトタイプの貯水池についても、ルールカーブを用いた管理が最適戦略になっていることが示され、こうしたことから、水資源管理における経験知を支える科学的原理を明らかにすることにつながることが期待されると説明している。
なお、今回の論文では、洪水に含まれる塩分、貯水池の堆砂の問題は除外して考えているとする一方、除塩を行うプラントもすでに稼動しており、そちらの研究も進めているという。また、除塩した灌漑用水は別途淡水タンクに貯留し、この淡水タンクの最適管理戦略についても、今回の研究と同様にHJB方程式の粘性解を調べているが、こちらについてはルールカーブによる管理は最適とはならないことが予想されているとしている。