ガラスそのものが鳴り響き、音を奏でる。AGC旭硝子はそれを実現するための新素材を開発。今年のミラノデザインウィークにおいて、この新素材を用いたインスタレーションを展示すると発表した。本稿では、3月7日に行われた事前記者発表会の様子をお届けする。
同社は2015年よりミラノデザインウィークに出展しており、先進性のあるガラス素材を用いた、五感に訴えかけるようなインスタレーション作品を展示してきた。
今回発表されたのは、研究開発中の新素材「音を生むガラス」。2枚のガラス板の間に特殊な中間層をサンドした合わせガラスとなっている。
「音を生むガラス」は、スピーカーの振動板として機能させるために生み出された。普通の1枚板のガラスは共振ノイズが発生しやすく、クリアな音を発することができない。そこで先述のサンドイッチ構造によって共振を減らし、スピーカーの振動板として広く使われている紙や樹脂といった既存の材料並みの性能へと近づけた。
また、「良い音」の要素のひとつである周波数帯域の広さ、平たく言えば「低音も高音もよく鳴る」能力において、「音を生むガラス」は既存材料の樹脂板よりも広帯域の音を表現できるという。
「音を生むガラス」がつくりだす"透明な空間"
この新素材を使って、ミラノデザインウィークに展示する作品「Soundscape」を制作するのは、建築家・萬代基介氏。代表作には東日本大震災復興プロジェクトの一環として建てられた「おしか番屋」などがある。
展示会場は、ミラノ中央駅の高架下にある古いドーム型の倉庫。「ホワイトキューブ(近現代の美術館のように、四方が白い展示空間)も検討したが、日本に無いような荒々しい空間であれば、ガラスや音の繊細さがより際立つと感じた」(萬代氏)
萬代氏は、建築家の視点でのガラスの魅力は、その「永続性」にあると語る。鉄のように錆びず、コンクリートのように劣化せず、長期間美しさを保つ。その一方で、力をかけられると砕けるもろさがあり、それも含めて美点だとコメント。永続的な美しさとはかない美しさ、それらのガラスの本当の美しさを空間で表現したいと意気込みを語った。
ガラスの「断片」ひとつひとつに異なる音を割り当てて鳴らす。会見で展示されたものには振動子がガラスにはめこまれていたが、同作品ではガラス板そのものに振動子を埋め込まず、離れたところに振動子を置き、ワイヤを用いて音を伝える方法を採った。「音を生むガラス」を使った音響は指向性が高いため、空間に立体的に配置することで、鑑賞者が場内を移動することによって、音の聞こえ方がさまざまに変化する。一見ムラのない"透明な空間"に多様性をもたらすことを狙う。
なお、ミラノデザインウィークの展示期間は、4月17日~22日、展示時間は10:00~20:00(17日は17:00閉場、19日と22日は18:00閉場)。会場はミラノ中央駅()「VENTURA CENTRALE」内。