2018年2月19日、東京メトロ深川工場のメディアツアーが行われた。そこで取材してきた話を基に、地下鉄車両の検修現場において「安全」や「業務効率化」などの課題をどのような形で解決しているかについて、紹介しよう。

前編では、安全を確保するための対策を取り上げたが、後編では、効率化のための対策を説明する。

効率化のための配慮 - 床下機器のメンテナンス

台車抜きを終えてウマに載せられた車両では、床下機器の取り外しが行われる。このとき、機器箱をまるごと下ろすケースと、機器箱から検修の対象部位だけを取り外すケースがある。

低圧電源の供給に使用するインバータ装置は後者で、蓋を開けて中身だけを取り出す。その際に、中身を出して運ぶための台車には、機器箱の底面と高さを揃えた治具を取り付けてあり、横移動だけで取り出せるようになっている。現場のアイデアだそうだ。こうすれば、重い機器を手作業で持ち上げる必要がないから身体に負担がかからないし、結果として効率化にも安全性の向上にもつながる。

  • インバータ装置から、作業担当の機器を抜き取るところ。ちっょと見づらいが、手前に置かれた搬送用台車に昇降式の治具が載っていて、真っ直ぐ引き出すだけで済むようになっている

空気圧縮機は前者で、昇降式のリフターを備えた作業車がやってくる。まず、配線や配管の接続を外す。続いてリフターを機器箱の下に入れて持ち上げたところで、固定用のボルトを外す。そしてリフターを下ろすと空気圧縮機が外れるので、そのまま運び去る。空気圧縮機の検修は足立区の千住工場で、関連会社のメトロ車両◆http://www.metosha.co.jp/◆が実施している。

  • 空気圧縮機はまるごと降ろしてリフターに乗せて、運び去る。行先は足立区の千住工場だ

わざわざ別の場所に持っていくのは効率化に反するように見えるが、そうではない。

千住工場はもともと、日比谷線の車両を対象とする重要部検査と全般検査を行っていた場所だ。しかし現在は、日比谷線の車両は半蔵門線の車両と同じ鷺沼工場で重要部検査と全般検査を行っている。

東京メトロのように多数の路線がある鉄道事業者では、路線ごとに専門の工場を設置するのが一般的なスタイルだったが、それでは同じような作業をする場所が複数できてしまう。

そこで有楽町線以降、1つの工場で複数の路線を受け持つようになった。現在、単一の路線を担当している工場は深川工場だけである(銀座線と丸ノ内線は中野工場、日比谷線と半蔵門線は鷺沼工場、千代田線・有楽町線・副都心線・南北線は綾瀬工場)。

日比谷線の車両を対象とする重要部検査と全般検査の業務を手放した千住工場は、代わりに機器の検修を集中して実施する場所に衣替えしたようだ。特定の機器の検修を1カ所に集中すれば、その機器に詳しいスタッフを集中配置できるから、結果として効率的になる。それに作業量の確保や平準化もしやすいだろう。

効率化のための配慮 - 作業の動線

どこの工場でも同じだが、「作業の動線」は重要である。ことに鉄道車両の全般検査では、外された機器などをどう動かすかが問題になる。無駄に行ったり来たりする動線を組んでしまうと、それだけで作業の手間が増えるし、動線が交錯するのは効率の観点からいっても安全の観点からいっても好ましくない。

台車のような大物は、台車抜きを行った建屋から先につながっているレールの上を転がして、検修場に運び込む。そこで最初に主電動機を外す。外された主電動機はクレーンで運ばれるのだが、降ろすときの向きを考慮して玉掛けを行うという。これも効率化のための配慮だ。

  • 台車から吊り上げられた主電動機。この後、頭上を「飛び去って」工場の反対側に移動するのだが、降ろす先のことを考えながら玉掛けを行っているという

主電動機を抜かれた台車はさらに細かく分解して、台車枠、ブレーキ装置、減速歯車など、部位ごとに専門の職場で検修を行う。なにしろ安全・安定走行を支える根幹であり、しかも冗長化ができない。だから、鉄道車両の検修では、台車がとりわけ重視されている。

また、輪軸(左右の車輪と車軸を一体化したもの)みたいな消耗品は摩耗が進んだら新品と取り替える。だから、台車検修場には輪軸がズラッと並んでいて壮観だ。

一方、床下に付いている電気関連・ブレーキ関連などの機器は、隣接する検修場に送り込んだり、クレーンで上層階の検修場に送り込んだりする。台車抜きを行う場所は高さが必要だが、そうでなければさほどの高さは必要としないから、重層構造にしてスペース効率を上げているわけだ。

  • 上層階にあるブレーキ関連機器の検修場に、機器を運び込むための縦穴。ここを通して、下からクレーンを使って吊り上げてくる

この、搭載機器の検修場を上層に上げてしまう配置は、深川工場だけでなく、筆者が訪れたことがある他のいくつかの車両検修現場でも見られたものだ。そのほうが敷地面積を節約できるし、立体的に動かすほうが移動量が少なくて済みそうだ。