産業技術総合研究所(産総研)は、上島製作所の協力を得て、過去の海洋環境情報が正しく記録されている化石サンゴを効率的に選定できる新しい評価方法を開発したと発表した。
同成果は、機能化学研究部門 光材料化学研究グループの高田徳幸 主任研究員、地質情報研究部門 海洋環境地質研究グループの鈴木淳研究グループ長らによるもの。詳細は、国際科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。
化石サンゴには、過去の海水温・塩分などの海洋環境情報がさまざまな形で記録されており、過去の大気・海洋系の変動の理解に役立つと期待されている。しかし、多くの化石サンゴ骨格のアラレ石は、その一部が方解石に変質しており、数万年以上前の未変質の化石サンゴの産出数は少ない。また、アラレ石と方解石の含有元素の成分比は異なるため、変質が進むにしたがい、サンゴ生育当時の海洋環境情報が失われていく。そのため、より変質度の少ない化石サンゴの正確な選定が求められている。
研究グループは今回、サンゴの骨格が放つ微弱発光に着目し、連携して技術開発を進め、鉱物中の遷移金属からの発光観測や年代測定に利用される、「熱ルミネッセンス評価法」の開発に取り組んだ。
今回開発した評価法は、フーリエ変換型スペクトロメーターを用いて、サンゴの骨格内に含まれる微量元素であるマンガンからの発光を測定して評価するもので、マンガンの発光の波長がアラレ石と方解石で大きく異なることを利用している。この評価法は従来法に比べ検出感度が高く、これまで評価ができなかった変質度が1% 以下の化石サンゴでも評価できる。この技術により、信頼性の高い海洋環境情報を留める化石サンゴを見分けることが可能となる。
さらに、今回開発した評価法の測定時間は1分程度と、従来法の約15~30分に比べてはるかに短く、選定作業の迅速化にも大きく貢献できる。
同成果の発表に際して研究グループは、「今後は過去の海洋環境の解明に向け、光計測系の改良を進めて、同評価法をより高精度化すると共に、化石サンゴの標準的な変質度評価法としての確立を目指す。また、化石サンゴだけでなく各種の海洋・地質試料に広く適用できる微量元素分析法としての開発も進めていく」とコメントしている。