理化学研究所(理研)は、天然魚類と環境水や底泥の分析ビッグデータから鍵因子情報を抽出する「エコインフォマティクス」により、水温差や抱卵に特徴的な恒常性摂動を「見える化」したと発表した。これにより、環境の変動予測や、生態環境が改善できる可能性があるという。

  • エコインフォマティクスによる生態系変化予測とその応用

    エコインフォマティクスによる生態系変化予測とその応用(出所:理研プレスリリース)

同研究は、理研環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームの菊地淳チームリーダー、魏菲菲特別研究員らの研究チームによるもので、同研究成果は、2月22日付けで米国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

ヒトの恒常性(≒健康)が周囲の気温、湿度、栄養、微生物といった物理・化学・生物因子で摂動するように、環境の恒常性(≒健康)も生態系サービスに関わる多彩な物理・化学・生物因子で摂動している。例えば、天然魚は水温上昇でオス化したり、日長条件が産卵の鍵因子であるなど、わずかな環境変化を敏感に察知しながら過酷な自然環境下で生き延びている。したがって、自然環境の試料を多様な角度から分析する環境要因解析の手法を高度化することで、自然環境という複雑系を「見える化」することができるという。

今回、同研究チームは、日本各地・各時期の天然魚類マハゼと、その代表的な生息地の水と底泥のメタボローム(代謝産物の総体)・イオノーム(無機元素の総体)・マイクロバイオーム(微生物叢)や表現型に関するビッグデータを収集した。そのデータを用いて、生息地の水温差や成長・抱卵などに関連する鍵因子情報を抽出するエコインフォマティクスを開発。表現型には定性的なデータも存在するため、各機器分析から得られる定量的データと統合解析ができるマーケットバスケット分析(MBA)法や、各種の多変量解析に基づく分類および関係性情報抽出を組み合わせて、生息地の水温差や抱卵に特徴的な代謝および腸内細菌叢摂動を視覚化した。

これまでの、ゲノム配列やタンパク質などの比較・特性解析を行うバイオインフォマティクスや、元素や官能基などの構造・特性解析を行うケモインフォマティクスに対して、エコインフォマティクスは環境に生息する魚類、水や底泥の物理・化学・生物因子の分類や関係性、鍵因子を抽出する手法となる。MBA法のように政治や経済といった複雑系を解析する社会科学で用いられる手法を用いたことで、環境という複雑系に内因する、弱い相互作用の関係性を浮き彫りにすることができた。ひとつの例として、酢酸を鍵因子とするエネルギー代謝の関係性をネットワーク抽画して示すことができたという。

今後、エコインフォマティクスによって得られた重要な鍵因子の変動から生態系のバランスが崩れる前に環境の変動を予測することや、鍵因子を制御することで生態環境が改善できる可能性がある。将来的には、解析結果を環境持続性の評価指針とするといった展開も期待できるということだ。