大阪大学(阪大) 歯学部附属病院、同大のサイバーメディアセンター、NECの3者は2月20日、「ソーシャル・スマートデンタルホスピタル(S2DH)」構想の取り組みを開始すると発表した。

今回の取り組みはNECのスーパーコンピューティング技術で構築したクラウドサービス基盤と、阪大で開発したAI技術を用いて、医療情報を処理することにより、地域と連携しながら新世代の「口の健康増進」を実現するものとなる。

阪大は、病院データや医者の知見などの情報について、最新のICT技術を利用したAIによる高度な情報データ分析とその共有まで包含した、S2DH構想という新たな枠組みを設置。

同大の歯学部附属病院とサイバーメディアセンターを実行組織に据え、NECをコンピューティング・ネットワーク技術のパートナーとし、社会的かつ包括的な歯科医療のあり方のさらなる発展に向けて、活動を開始する。

構想では、歯学部附属病院の診療現場において、安全かつ効果的な治療方法をデータに基づいたAI分析によって戦略的に導き出し、患者に治療の選択肢を提供するという。サイバーメディアセンターでは、これまで歯学部附属病院で蓄積してきた歯科医療のノウハウを広く地域に生かすための、ICTサービスプロバイダとしての役割を担う。

  • 構想のイメージ

    構想のイメージ

これにより、阪大全体として患者の嗜好により合致した包括的な治療方法を提案することで、家庭でも可能な異常の早期発見など、日常的な口腔健康維持に貢献することを目指す。

一方、NECは構想を実現するために必要な、最新のスーパーコンピューティング技術をはじめとしたICT技術を提供する。

すでに3者は具体的な取り組みを開始しており、歯学部附属病院では矯正歯科用、舌粘膜病変、歯の喪失の3領域でAI利用を進めている。サイバーメディアセンターでは病院のデータを計算機センターで高速処理するためのセキュア・ステージングの研究開発を、NECとともに進めている。

これらの取り組みをベースに、2018年度から歯周病AIと一般歯科AIの構築を中心とする実証実験を開始する予定だ。目指すべき成果としては、矯正歯科用AI(瞬時に効果的な治療計画の立案)、舌粘膜病変AI(口腔内写真による病変の早期発見、見落とし防止の支援)、歯の喪失AI(データ同化技術を用いた歯欠損シミュレーション)、セキュア・ステージング(医療データのセキュア分割、統合管理)の4点を挙げる。

矯正歯科用AIでは、矯正歯科は医療の中でも最も扱う情報量が多い分野の1つのため歯学部附属病院矯正科は、これまでに3次元模型・顔形態・レントゲン情報など、多様な複合情報を解析するAIシステムの開発に取り組んできた。これらの診断支援システムをNECのコンピューティング・ネットワーク技術と組み合わせることで、包括的な口腔情報データ分析とその共有の仕組みを提案するとしている。

舌粘膜病変AIについては、歯学部附属病院では患者の口腔内を撮影するだけで口腔外科などの専門的医療機関へ受診の必要性を確認できるAIの開発に着手し、国内の専門学会でも成果を報告している。同システムは口腔内写真から、がんや前がん病変、口内炎などを自動的にスクリーニングし、病変の早期発見、見落とし防止の支援を可能とし、現在も実用化に向けて開発を進めている。

歯の喪失AIでは、高齢者の歯の欠損に関する危険性の予測を、膨大な高齢者歯列データをAIに学習させることで実現するという。これにより、歯を失いやすい患者を早期に判定し、健康寿命に大きな影響を与える高齢者の歯の健康と口腔ケアの拡充への貢献を目指す。

セキュア・ステージングに関しては、従来では病院外への持ち出しが難しかった医療データについて、スーパーコンピューターをはじめとした最先端のコンピューティング・ネットワーク技術を用いて解析するために、ネットワーク経路、ハードウェアデバイス、メモリデータ、システム占有時間などをセキュアに分割する仕組みと、それを統合管理するソフトウェアを開発する。