産業技術総合研究所(産総研)は、同研究所 機能化学研究部門 化学材料評価グループの大園拓哉主任研究員とと寺岡啓主任研究員とが、引っ張ると表面に瞬時に凹凸が生まれる新しいゴムシートを開発したことを発表した。
ゴム材料はその柔らかい触感のため、ロボットハンドや搬送用ベルトの表面、工具、スポーツ用具、文具など、人や物と接触する表面部材として多く用いられている。ゴムは、化学的性質や硬さ、微細形状を調節したり、他の素材と複合化したりすることで、用途に応じた付着や摩擦(トライボロジー)の特性を発現できる。
ゴム材料のトライボロジー特性は、ゴム自身の特性や表面状態に依存する一方で、スポーツ用品や工具類のグリップやロボットハンドの用途では、把持(つかむ)と脱離(はなす)の過程や状況に応じて異なるトライボロジー特性を付与する必要があり、応答性や制御性に優れたゴム材料の開発が求められている。
このたび産総研が開発した新しいゴムシートは、シリコーンゴムシートの表面にガラスビーズを埋め込んだもので、横方向に伸ばすとシートの厚みが減りながらビーズ部分が盛り上がり、表面に多数の凹凸が発生する。そのため、ゴム表面に凹凸がない時は一定の付着力を示すが、凹凸が発生するとその程度に応じてゴムと物体の接触面積が低下し、付着力が瞬時に減少する。
例えば、同シートをロボットハンドの表面部材として用いると、表面が平坦な状態では物体を付着で把持して輸送し、目的の場所で外部から伸びひずみを与えて凹凸を発生させ、付着力を低下させることで、瞬時の脱離を実現できる。
産総研は今後、ゴム基材やビーズの種類・配置・数密度などを変え、構成材料と付着特性の関係を調べるほか、摩擦力など他のトライボロジー特性への効果も調べ、材料性能の高度化を目指すという。今回開発されたゴムシートは、握りの度合いに応じてグリップ性能が瞬時に変わるような、新感覚のスポーツ用品や工具類への応用も期待されるため、企業などと連携して用途開発にも取り組んでいくとしている。