日本はDXの波に乗り遅れてる!?日本マイクロソフトとIDCの調査結果から見えてきたものとは?
日本マイクロソフトは2月20日、同社とIT専門調査会社のIDC Asia/Pacificがアジア15カ国・地域のビジネス意思決定者1560人を対象としたデジタルトランスフォーメーション(以降、DX)に関する「アジアにおけるデジタルトランスフォーメーションの経済効果調査」について発表を行った。2017年にはGDPに占める割合は約8%に過ぎなかったモバイルやIoT、AIといったデジタル製品・サービスが2021年までに約50%を占めるとともに、GDPの年平均成長率を0.4%増加させると予測している。しかし、調査結果からは日本の経営者らが抱える問題や課題も浮き彫りとなった。
調査結果の発表に先立ち、代表取締役社長である平野拓也氏より、同社が注力しているDX推進に対する取り組みや、マイクロソフト製品を利活用しDXに取り組んでいる企業の事例等が語られた。「個人・組織力のポテンシャルを最大限に引き出す“働き方改革Next”に貢献し、パートナー企業とコ・イノベーション、コ・クリエーションを図る“インダストリーイノベーション”。この2つのドメインにフォーカスして事業を推進している」と平野氏。チャットボットやクラウドバンキング、コネクティッドカーやIoT。そして、Mixed Reality(MR)などのテクノロジーを、様々な業種・業態で利活用して日本におけるDXが加速しているなか、富士通とはAIを活用した働き方改革を、リコージャパンとは中堅・中小企業の働き方改革を、電通国際サービスとは金融業界におけるブロックチェーンの対応を、といったように、パートナー企業とともに共創を推し進めているという。
DXを推進している企業が増えつつあるなか、一方でDXを経営課題として捉えている企業も存在していることだろう。DXでどんな結果を期待しているのか、DXに対する考え方・受け入れ方も企業ごとで異なるのではないか。そういった想いから、今回の「アジアにおけるデジタルトランスフォーメーションの経済効果調査」が実施された。
調査結果については、IDC Japanリサーチバイスプレジデントの中村智明氏より詳細が報告された。オーストラリア、中国、香港、インドネシア、インド、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、スリランカ、台湾、タイ、ベトナムにおいて、業種は金融、政府機関、ヘルスケア、製造、小売、教育機関、かつ250人以上の従業員を擁する企業において、デジタル戦略立案を担当するビジネス及びITのリーダーを対象とした今回の調査では、「DXによる経済波及効果を調査したところ、驚愕の結果が明らかになった」と中村氏。全社的、あるいは展開中のDX戦略を有しており、収益の3分の1以上をデジタル製品とデジタルサービスから得ている企業をリーダー企業と定義し、実際にアジア某国のDXに取り組んでいるリーダー銀行とそれ以外のフォロワー銀行の売上を10年間に渡り調査したところ、驚くべきことに43%も売上に差が生じた。金額として、約1080億円もの利益ギャップを生じている現実からもわかるように、DXによる経済効果はもはや無視できないだろう。
また、リーダー企業とフォロワーにおいて、2017年現在で既に約2倍のメリットを享受しているとの実績報告も。顧客からの評判やロイヤリティ、顧客を惹き付け続ける力はもちろん、生産性や利益の向上、コスト削減に至るまで優位なポジションを得ており、そのメリットは2020年時点においてもリーダー企業が優位性を保ったまま推移していくと予測している。
「ちょっと耳の痛い話ですが」と前置きしたうえで中村氏は、アジアのリーダー企業と日本国内の企業における課題に差がありそれが問題だという。「スキルとリソースが不足している」という課題に関しては共通で同程度のパーセンテージなのに対し、「どのIT技術が最適か見極めらない」や「DXプロジェクトに対する投資不足」、「幹部のサポートとリーダーシップが不足」といった項目において強く、国内企業は課題だと感じているのだ。アジアのリーダー企業にとって当たり前なものが、声高にDXが唱えられつつある国内企業において消化し切れていない現実が見て取れる。
さらに中村氏はDXにおいて「データが価値を生む」と述べ、その重要性とKPIに関する意識の差異が大きいことも指摘した。アジアのリーダー企業は「データ資本を用いた売上、ビジネスモデルと生産性」について51%がKPIとして設定しているのに対し、国内企業は31%しか設定されていない。同様に、顧客の口コミや市場シェア、製品・サービスのイノベーション頻度等にも乖離が見られ、新たなKPIへの取り組みが遅れているのではと述べた。それは、IT投資の面からも顕著に表れており、データ資本の源泉である「ビッグデータアナリティクス」への投資がリーダー企業では18.6%なのに対し、国内企業は僅か11.5%にとどまっている。AIやコグニティブ、ロボティクスへの投資は積極的だが、それらのベースとなるデータに対する投資の少なさには、ちぐはぐさを感じざるを得ない。
加えて中村氏が懸念を抱いたのが、DXによってもたらされる恩恵に対する国内企業の楽観視している姿勢についてだ。アジアのリーダー企業は利益率の向上やコスト削減、生産・運用時間の短縮等において3年後となる2020年に慎重な効果を予想しているのに対して、国内企業はおよそ2倍近い値となっており、深刻な課題を抱えておりKPIへの取り組みが遅れているにも関わらず楽観視している点について「危うさを感じる」と中村氏は述べた。
また、企業特性の面でも興味深い結果が示された。企業文化や変化への順応性、組織としての立ち居振る舞い、DXへのアプローチ、企業内におけるリーダーシップと構造、DXに関する予算の5つの項目すべてにおいて、アジアのリーダー企業はおろか、フォロワー企業と比べても後れをとっている。
報告の最後に中村氏は、DXを体現していくために重要な要素として、失敗を奨励し失敗から素早く学ぶアジャイルな姿勢が息づく“デジタル文化の創生”、DXに則したKPIを設定しデータ技術に投資、注力する“情報エコシステムの構築”、スモールスタートで小さな成功体験を積み重ねてより大きな成果へと繋げる“マイクロ改革からの始動”の3項目を挙げ締めくくった。
再び登壇した平野氏は「我々もクラウドやAIといったITソリューションを提供する企業として、テクノロジーだけではなくご協力できることがある」と述べた。ビジョンの策定においては、マイクロソフトにおける自社の変革事例を共有するほか信頼できるパートナーとして変革を支援する。課題解決については、要素技術を持ったマイクロソフトのメンバーとビジネスを熟知したメンバーが2日間、アイディエーションから実際にコーディング作業を行いカタチにし、そこで得られた糧を変革の礎とする“Hackfest(ハックフェスト)”やマイクロソフトのパートナーとユーザー企業を引き合わせるソリューションマッチングを提案していくという。また、ユーザー企業のCDO(Chief Digital Transformation Officer)を中心とした「D-Lex」というコミュニティを2月20日に設立、課題やインサイトの共有を図り、ユーザー企業が挑むDXに対して貢献していければと言葉を結んだ。