島津製作所は2月9日、同社のシニアフェローであり、ノーベル化学賞の受賞者でもある田中耕一氏が所長を務める「田中耕一記念質量分析研究所(MS研)」の創設15周年を祝し、京都にて記念講演会を実施した。講演では、田中氏のこれまでの研究人生や、これからの研究の展望について語られた。
受賞報道の裏話 - 誤解と批判と、新たな風潮
講演会が始まり、「これはみなさんにはあまり話したことがない内容ですが…」とまず語られたのは、受賞当時の報道内容についての話だった。
「受賞当時、報道では『会社で認められていなかった』などと言われていましたが、実際には誰かが自分の頑張りを見ており、決して認められていないわけではありませんでした。また『控えめな人物だった』とも報道されていました。ある日、採用課から『控えめな田中さんでも認めてもらえる会社だから入社したい、と言って採用試験を受けた人がいた』と言われましたが、どちらかというと実は、控えめというより、目立ちたがり屋でした」(田中氏)
こう語りながら表示されたスライドでは、会社の同期入社の人たちと撮影写真で真ん中に陣取っていたり、会社案内の写真に出演したりと、確かに目立っている様子が見て取れた。受賞当時の報道のイメージからすると、少し意外に思う人もいるだろう。
しかし、このように笑いながら語る同氏であったが、受賞後には苦しい時期もあったそう。
「受賞当時、周りからは『なぜ田中が?』『なぜ技術者が受賞した?』などと言われ、苦しいときもありました。社内からは、『田中って誰?』とさえ思われていたと思います。しかし今になると、周囲の人たちに『あの田中にできるのなら、自分にもできるかも』などと思わせることができ、(失敗を恐れずに挑戦ができるような)いい雰囲気が生まれていたように感じます」(田中氏)