「地質学」と聞くとどのような印象をもつだろうか。火山の分布、プレートテクトニクス、地層や化石…、などといったキーワードは思いつくが、それらが実生活とどう結びつくか? と問われるとあまりイメージが湧かない、という方も少なくないのではないかと思う。しかし、地質学はわたしたちが当たり前に使っているような、さまざまなものに役立っている。そんなことを再認識できるような展示スペースが、茨城県・つくば市の「産総研地質標本館」だ。
産業技術総合研究所(産総研)は、産総研地質標本館の展示「日本列島の立体地質図」をリニューアルし、2月19日、報道陣に向けて公開した。
これらは産総研発ベンチャーである地球科学可視化技術研究所(地球技研)により製作されたものだ。立体での地質図の表現を可能にする、精密立体模型に地質などに関するさまざまな情報をプロジェクションマッピングにより投影する技術「精密立体地質模型システム」が用いられており、陸地と海底の地形を継ぎ目なく接合したプロジェクションマッピングとしては、世界最高クラスのサイズと解像度になるという。
同館ではこれまでも立体地質図を設置していたが、今回のリニューアルによって、地質の区分数が3倍以上になったほか、地質情報の重ね合わせ投影が可能になった。具体的には、「地質図」、「衛星画像」、「地形図」の3種類の背景画像と、10種類の個別画像(海岸線・活火山・断層・1級河川・鉄道・道路網・高速道路・上水道関連施設・下水道関連施設・学校・物流拠点)を自由に重ねて表示することが可能だ。
これにより、どのような場所に物流拠点が多いのか、鉄道はどのような場所にひかれているのか、高速道路はどのような地質や地形をまたいで作られているのか、などといった、国土の利用や交通網の配置などの情報を、地質学の観点から見ることができるようになる。
このような展示物をつくったのは、「地質の面白さを知り、ワクワク感を感じてほしい」、そして「新たな視点で地質を見ることで、産学連携を図るきっかけをつくりたい」という理由からだという。産総研では、同展示物について次世代の研究者、およびオープンイノベーション創出の場となれば、と期待感を募らせる。
同展示物の縮尺は水平方向が約1/34万で、垂直方向では、山の形状を強調することを目的として、水平方向の3倍程度の縮尺(約1/10万)でつくられている。富士山はもちろん、熊本県の阿蘇山とそのカルデラなどもはっきりと確認できる。
これらの地形は、3Dプロッターと呼ばれる、切削式の三次元造形機で出力したもの。3Dプリンタなどで製作した場合に比べ、より低コストで、かつ精度の高いものを再現することができるとのことだ。
同展示物を作製した地球技研の代表取締役社長(所長)である芝原暁彦氏は、「プロジェクションマッピングを活用したこのような展示は、すでに災害現場におけるシミュレーションへの利用や、カンボジアでは地学教育に用いられるなど、さまざまな分野で利用されている」と説明したほか、「今後はニーズに合わせて、(海岸線・活火山などに加えて)さまざまな個別画像を追加していきたい」と今後の展望を述べていた。
以上のように、ひとえに「地質学」といってもその応用範囲は、道路設計、インフラ設計など、実生活で当たり前に使っているさまざまなものに大きく関わっている。今回紹介した「日本列島の立体地質図」は、3月1日より無料で一般公開される予定となっているため、「地質学」をより身近に感じるために、一度訪れてみてはいかがだろうか。