日本IBMは2月19日、都内でメディア向けに「IBM Cloud」および「IBM Watson」の事業方針説明会を開催し、同日から「VMware Hybrid Cloud Extention(HCX) on IBM Cloud」「SAP on IBM Cloud」の提供を開始した。
冒頭、日本IBM 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏は「MM総研の調査によると、国内の法人ユーザーのIBM Cloudに対する期待値は高くなっているほか、国内企業の期待値もグローバルでビジネスを行うクラウドベンダーへの期待が高くなっている」と、述べた。
そして、2018年の事業戦略として同社は「既存システムのクラウド化と、クラウドネイティブなアプローチの推進」「『Cloud+』で顧客のビジネス価値を高める」「ビジネスパートナーとの取り組みの強化」の3点を挙げている。
既存システムのクラウド化とクラウドネイティブなアプローチの推進
既存システムのクラウド化については、旧来型のSoR(System of Record)のアプリは構築するまでに膨大な工数が存在し、ミッションクリティカルなアプリが多く、上からアプリ、非機能要件(サーバ管理/監視、バックアップ、可用性など)、インフラストラクチャの層となっているが、非機能要件はインフラに埋め込まれている。
これを一般的なクラウドに移行する場合、オンプレミスで担保している非機能要件を担保しない代わりに無限のスケールを提供するため、変えなくていいアプリを移行すれば非機能要件はなくなってしまう。非機能要件がなくなると性能が落ち、トラブルも発生することがあるという。
テスト・開発環境のアプリであれば、非機能要件が多くないため一般的なクラウドでも稼働するが、ミッションクリティカルになればなるほどクラウドとの相性が悪いと指摘。非機能要件をVMwareで実装している顧客は多く、同社のVMware on IBM Cloudはベアメタルのレイヤを用意しているため、ベアメタルを活用することで非機能要件をそのまま利用できるという。
同サービスの特徴は、クラウド上にオンプレミスと同じVMware環境の構築が可能なほか、顧客主導とIBM主導のフルスコープ型運用管理の選択肢を持ち、ライセンスの自由度が高く豊富であり、月額サブスクリプションに加え、BYOL(Bring Your Own License)も利用できる。また、グローバル21カ所のデータセンター(DC)から提供し、DC間のネットワークは無償で利用を可能としている。
さらに同社は2月19日からVMware HCX on IBM Cloudを提供開始。従来は、オンプレミスとIBM Cloud間のVMwareのワークロードを相互的に移動させるためには、vSphere 6.0以上でなければならなかったが、5.1以上であればアップグレードの必要がないほか、LP2延伸でIPアドレスの変更もなく、マイグレーションによるダウンタイムもないという。
価格は1サイトあたり月額約57万円、VMwareに移行する際にVMwareごとに同5500円となり、移行時の料金は移行するときだけ従量制で課金する。
SAP on IBM Cloudは、アンマネージドとマネージードの選択肢を持ち、「IaaS」「マネージドOS」「マネージドSAP」の3つのサービスを用意。IaaSは一般的なクラウドベンダーが提供しているもので、マネージドOSはネットワーク、ストレージ、サーバ、仮想化、OS、データベース(オプション)を含み、マネージドSAPはOSからの上のレイヤであるデータベース、ミドルウェアを含む。
SAP on IBM Cloud with VMwareは、VMwareのケイパビリティとSAPを組み合わせ、ハイブリッドなオペレーションおよびデザインを可能にするという。
一方、クラウドネイティブなアプローチとしてはIBM Cloudは後発だが、IaaSやPaaSのプラットフォームをオープンスタンダードテクノロジーで構築することがポイントだという。
三澤氏は「オープンスタンダードテクノロジーのメリットは、エコシステムが作りやすく、ハイブリッドデザイン、ベンダーロックインが回避できる点だ」と、強調する。
オープンスタンダードテクノロジーにおいて、特にクラウドネイティブのアプリ開発では、マイクロサービスアーキテクチャとCaaS(Container as a Service)の2つが重要になるという。実際、同社はCloud Native Computing FoundationやMicroProfileの設立に関わっているほか、Docker、kubernetesに対してもコミットメントしている。
「Cloud+」で顧客のビジネスを高める
Cloud+については、日本IBM 執行役員 ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長の吉崎敏文氏が説明した。同社では、特にクラウド+AIに注力し、クラウドとWatsonを組み合わせたソリューションの強化に取り組み、クラウドに付加価値を加えていくと意気込んでいる。
同氏は「2016年2月にWatsonのAPIを発表し、誰でも活用できるようになり、適用領域は顧客接点、業務プロセス、新サービス・製品と順次拡大してきた」と、胸を張る。
同社は企業向けのAIでは顧客自体のデータ整備が課題であると再認識し、1月にワトソン事業とクラウド事業の一部を統合、ワトソン&クラウド・プラットフォーム事業部を発足し、IBM Watson Data Platformの機能を本番稼働の実績をベースに拡張する。また、Watson Conversation、Watson DiscoveryのAPIにもフォーカスする。
同プラットフォームは、IBM Cloud上で稼働する高度なデータ分析基盤であり、データをWatsonに効率的に提供できるよう整備するためのデータプラットフォーム。
現時点ではData Science Experience(DSX、提供中)、Data Catalog(提供中)、Data Refinery(β版提供中)、Dynamic Dash Bord(同)の4つの機能を提供している。
DSXは、チーム(データサイエンティスと、ビジネスアナリスト、開発者)での分析を可能にする統合分析環境サービス、Data CatalogはDSXで利用するクラウド、オンプレミスにあるデータを見つけ、カタログ化し、全データを対象としたメタデータ索引(カタログ化可能なデータはCSV、Textファイル、イメージ、データソースへの接続情報、ノートブックなど)を可能としている。
Data RefineryはDSXでの分析を可能とするようにデータを加工、連携させ、Dynamic Dash Bordはダッシュボードとレポートを作成し、データを可視化することでダッシュボードを複数部門で共有する。
ビジネスパートナーとの取り組み
三澤氏は、パトーナーとの協業の意義について「IBM単体ではIBM Cloudの普及は限界があるため、パートナーの力が必要となる」と語る。
そこで、同社は新しいパートナープログラムとして「IBM Cloud Partner League」を設けた。条件としては、IBM Cloudの研修を受講した営業・技術者の確保、資格の取得など、同社が定めるコンピテンシーを満たしていること、またIBM Cloudを基にしたサービスメニュー・運用体制を確立していることだという。
まずはVMwareビジネスから開始し、将来的にはクラウドネイティブアプリの開発、コンテナ技術、Watsonなど企業に必要な分野に拡大していく方針だ。