カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは、3Dプリンタ技術を用いてナノスケールの複雑な金属構造を作製する方法を開発したと発表した。この方法を量産可能な形にスケールアップできれば、医療用の微小なインプラント作製、三次元論理回路、超軽量の航空機用部品など、さまざまな産業分野への応用が期待できるとしている。研究論文は「Nature Communications」に掲載された。
Caltechの材料科学者Julia Greer氏の研究室では、これまでナノスケールのさまざまな構造物を3Dプリンタ技術で作り出す研究を行ってきた。その方法は主にレーザー照射によって熱硬化性樹脂を局所的に加熱して、微細な構造を形成するというものである。
この方法は熱硬化性樹脂には有効だが、レーザーのエネルギーが金属を溶融させるほど高くはないため、金属加工には適用できない。このため、およそ50μmよりも小さなサイズの金属構造を3Dプリンティングで形成するのは困難であるという問題があった。
今回の研究では、レーザーを用いた3Dプリンティングを金属加工に適用するための新手法が提示されている。その方法は金属と有機分子が結合した金属錯体を用いるというものである。
具体的には、ニッケルに有機分子が結合した錯体に対して、レーザー3Dプリンタ技術を適用した。有機分子をレーザー照射によって熱硬化させることで複雑な三次元構造を形成することができるが、この時点で構造物の内部には足場材のような状態でニッケルが含まれていることになる。
次のプロセスとして、形成した構造物を真空チャンバ内で1000℃程度までゆっくりと加熱する。この温度はニッケルの溶融点(1455℃)には届かないが、構造物中の有機分子を蒸発させるには十分高温であるため、有機分子が飛んでニッケルの足場だけが残ることになる。また、加熱処理の過程で、金属粒子同士が結合するという効果もある。
さらに、加熱処理によって元の構造物の成分の大半を占めていた有機分子が取り去られるため、構造物の寸法が80%程度縮小されるという効果があり、このことが微細な金属構造の形成に役立つ。寸法だけが縮小され、構造物の形状と特性は維持されるという。
論文によると、ニッケル成分が重量あたり90%以上を占める構造物について、ユニットセルの寸法2μmを実現している。この構造物には、20nmのナノ結晶からなる300~400nm径のビーム構造が含まれている。その機械強度は、2.1~7.2MPa g-1 cm3となっており、従来の3Dプリンタ技術で作製した大き目の金属構造物に匹敵する強度であるという。
研究チームでは現在、この方法のさらなる改善に努めている。課題としては、有機分子の蒸発後に空孔や少量の不純物が残る問題があるという。また、産業への応用を考えると、ニッケル以外の金属、特に難加工とされるタングステンやチタンにもこの方法を適用できるようにする必要がある。セラミック、半導体、圧電材料など、金属以外の材料への同法の適用も検討しているという。