KDDI、大林組、日本電気(NEC)の3社は2月15日、次世代移動通信システム「5G」と4K3Dモニターを活用した建設機械(建機)の遠隔操作公開実験を開催し、国内で初めて遠隔施工に成功したことを発表した。
同実験では、5Gの高速・大容量通信を建機の遠隔操作に応用し、既存のモバイル通信では実現が困難であった高精細映像の伝送を実現した。現行の建設機械に高精細4Kカメラを2台、2K全天球カメラを1台、2K俯瞰カメラを2台設置し、計5台からのカメラ映像を、28GHz帯の超多素子アンテナによるビームフォーミングを活用して、遠隔操作室に伝送。遠隔操作室では、裸眼でも自然に立体視が可能な4K対応の3Dモニターを導入することで、従来のモニターに比べて奥行をより正確に捉えることが可能となり、遠隔操作の作業効率を従来に比べ15%~25%改善できたという。
今回の実験に参加したKDDI モバイル技術本部 シニアディレクターの松永彰氏は「これまで、モバイルネットワークはニーズに合わせて進化してきた。1~2Gで移動中の通話が可能になり、3Gでは携帯電話でメールやインターネットが使えるようになった。そして、現在はスマートフォンの普及に伴って、4Gで映画や音楽、買い物が楽しめるようになっている。今後5Gでは、技術的なスピードアップに加えて、パラダイムシフトが起きることを期待していおり、ワクワクする新しいエンターテインメント体験や自由で豊かなコミュニケーション、便利で安心安全な社会の提供を目指している」と、5Gがもたらす社会的な変化に触れた。
大林組 技術本部 技術研究所 上級主席技師の古屋弘氏は「近年、自然災害の増加が目立つ。災害時は、迅速な災害復旧や社会インフラの再構築を安全に行う必要があるため、建機の遠隔操作に対するニーズは非常に高まっているが、通常の施工と比較して、60%程度まで効率が低下してしまうという課題があった。また、遠隔操作は特殊な技術が求められる作業であり、老齢化が進み熟練工の減少が顕著な建設業界において、従来の4G通信や無線LANによる遠隔操作には限界があった」と、遠隔操作が求められる背景と、従来の課題について説明した。
遠隔操作が実現すれば、自然災害だけでなく、ビルの倒壊作業や粉じん対策が必要な危険エリアでの作業も可能だ。
今回の実験では、有人操作と目視遠隔操作、無線LAN、5Gによって、50cm四方のコンクリートブロックを積み木のように積み上げて、それぞれの作業時間を測定。実験回数を重ねるごとに、作業時間の短縮を実現できたという。有人操作までではないが、無線LANによる遠隔操作よりも短時間で作業を行っていることがわかる。
「実証実験では、4Kの高品位な映像で作業を行うことで効率の改善を実現できたと考えている。また、5Gが将来商用化された場合、遠隔操作室を常設し、そこから日本全国の災害現場をコントロールできる可能性が出てきた」と、古屋氏。
遠隔操作室では、4Kステレオカメラによる3D映像を見るので、操作者は遠近感を把握しやすい。一見、簡単そうだが、実際に操作している様子を見ていると、微妙な位置調整など繊細な操作が必要だということが伝わってくる。
また、「サロゲート」と呼ばれる遠隔操作ユニットを一般の建機に後付けで設置しているため、建機メーカー問わず無人化施工をすることが可能。搭乗操作との併用も可能なので、危険エリアは遠隔操作、それ以外は有人で操作をするといった使い分けができる。
5Gの基地局を担当した、NEC ワイヤレスアクセスソリューション事業部 事業部長代理の田上勝巳氏は「5Gでは基地局が端末と通信をする際に、ビームを形成して端末を狙い撃ちし、効率よく通信を行うことが可能。特に、今回はビームをきめ細かく形成できるフルディジタル制御方式を採用したため、1台の基地局から同時に複数の無線ビームを送信できる」と、同社の5G基地局の特徴を述べた。
将来的には複数の建機に対応し、より大容量のデータを送受信できるようにするなど、遠隔施工のさらなる効率化や熟練工の人手不足問題の解消を目指す。