美容サロンの会員カードをスマホアプリ化し、顧客情報とPOSデータを連携させ、顧客の囲い込みや来店促進を支援するクラウドサービスが普及の兆しを見せている。美容室やビューティーサロンは個人経営の小規模店が多くIT化はあまり進んでいないが、汎用的なタブレットPCとクラウドサービスを利用することで低価格化が可能となり、ITツールを導入しやすい環境になった。
美容業界向けのクラウド型POSシステム「POS lab」を開発したのは、美容総合商社大手のダリアとソフトバンクだ。美容業界における知識・ノウハウをダリアが提供し、システム開発やスマートデバイス活用についてはソフトバンクが支援する。2016年9月よりダリアが販売を開始した。
若い世代のヘアデザインは「ランチメニュー」指向
若い世代を中心にヘアスタイルの考え方は変化しつつあると、有名美容サロン「apish」の副社長、網野一廣氏は語る。
「今の10代、20代の若者は以前ほど髪をメンテナンスしなくなり、カットのみカラーのみで済ます方が多くなりました。10代などは前髪カットだけで、後ろ髪は何カ月も切らなくて平気という人もいます」
料理に例えれば、フルコースよりも軽めのランチメニューで満足する人が増えているのだという。こうした傾向にはSNS「インスタグラム」の影響もあるようだ。
「インスタグラムに載ったこの前髪が素敵だから同じにして、という注文をする若い人が増えています。インスタグラムにヘアデザインを投稿する方も、部分的な奇抜さをアピールする傾向があります。こうした流れが部分カットのみのお客さまが増えている原因の1つかもしれません」
しかし、こうした変化は悪いことではないと網野氏は語る。
「美容サロンにとって重要なのは1回の来店での客単価よりも、そのお客さまが1年間にいくらお金を使ってくれるかが重要です。1回の単価は安くても、年に何回も来店していただける方が店にとってはうれしい。繰り返し通っていただければ、デザイナーと仲良くなっていただける。そうすれば新しいヘアスタイルやトリートメントを提案できますから」
顧客に繰り返し来店してもらうためにアピッシュは「POS lab」を導入している。このPOSシステムはPOSレジや予約管理機能はもちろんだが、従来のPOSシステムにはない顧客分析やカルテ管理、帳票分析といったCRM機能を持たせて、既存客のリピート率を向上を支援する。来店頻度や顧客の重要度を表示する機能を使い、ロイヤルカスタマーの来店周期を予測して、新しいヘアデザインを提案するプッシュ通知を送るといったプロモーションが可能になる。
80%を超える入会率の秘訣は「店のオリジナルアプリ」だから
アピッシュ銀座の統括マネージャー、三枝真人氏は「このシステムの良いところは、アピッシュのオリジナルアプリとしてお客さまに紹介できるところですね。スマホアプリが予約や個人カルテを管理するメンバーズカードになっていて、独自の来店ポイントやクーポンも提供できます。クリスマスクーポンといった季節ごとのキャンペーンや店の紹介動画を配信するなど、リピート率を高める施策をいろいろ行っています。Webサイトで情報発信してもなかなか見てもらえない課題がありましたが、スマホアプリならお客様へ情報を直接お届けできます」と語る。
アピッシュでは席の前にポップを立て施術中にアプリの紹介をして入会を促進している。「POS lab」の導入から1年弱で、約80%の顧客がアプリを利用しているという。美容業界では店独自の会員カードを発行する慣習が根付いているから、それがスマホアプリになることに顧客の抵抗は少ないのだろう。同店では手書きのダイレクトメールも利用しているが、スタッフに掛かる負荷を考えればそれほど頻繁に実施できない。しかしスマホアプリによるプッシュ通知は少ない労力で発信できるため、多くの情報発信が可能になった。