理化学研究所(理研)は、「理研小型加速器中性子源システムRANS(ランズ)」を用いて、鉄鋼材料軽量化の鍵となるオーステナイト相分率の測定に成功したことを発表した。
この成果は、理研 光量子工学研究領域中性子ビーム技術開発チームの池田義雅氏、大竹淑恵氏、日本原子力研究開発機構物質科学研究センターの鈴木裕士氏、東京都市大学工学部の熊谷正芳講師らの共同研究グループによるもので、日本鉄鋼協会「鉄と鋼」(3月1日号)に掲載されるのに先立ち、2月5日、オンライン早期公開版に掲載された。
近年、自動車などの輸送機器では、軽量化による燃費向上が急務となっている。自動車の軽量化には、薄くかつ高強度の「高張力鋼」が適しており、鋼板の熱処理過程で得られる「残留オーステナイト」を含む複相鋼は、高い延性と高強度を同時に実現した高性能の高張力鋼として、近年多く活用されつつある。
オーステナイトは、強度・延性などを高次元で両立するためにその割合が重要となる一方で、この残留オーステナイトは、鋼を硬くするために行われる「焼き入れ」が不完全な場合に生成される相でもあり、硬さの低下や、外力や経年による寸法変化などの原因になることがある。 これらの理由から、鋼材の性能・品質を保つためには、オーステナイトの相分率やその変化を正しく測定・制御することが必要となる。
相分率の測定には、鋼材に対して透過性の高い中性子を用いる「中性子回折法」が有効であるが、その中性子源は研究用原子炉などの大型実験施設に限られており、小型中性子源ではビーム強度が低く、これまで測定されていなかった。
このたび研究グループは、オーステナイトを含む2相からなる複相鋼をサンプルとして、「理研小型加速器中性子源システム(RANS)」を用いて中性子回折測定を行った。回折計の構築では、遮蔽を効率的に配置してバックグラウンドノイズを低減することで、2相それぞれの回折ピークを識別できるようにした。RANSで測定した複相鋼のオーステナイト相分率は、大型実験施設での測定結果と差1%以内で一致する結果が得られ、小型中性子源の有用性が示された。
小型中性子源は多くの分野、産業分野に展開していくと考えられており、この手法は今後、鋼材の品質管理や開発にとどまらず、材料の基礎研究や新材料開発、および品質検査といったものづくり現場に貢献することが期待できるとしている。