京都大学(京大)は、同大の研究グループが、無被ばくで造影剤の使用無しに血管を高精細に画像化できる「光超音波イメージング技術」により、加齢に伴う手掌動脈の湾曲傾向を定量的に解析することに成功したことを発表した。

この成果は、同大医学研究科の戸井雅和教授、同医学部附属病院の松本純明特定助教らによるもので、1月15日に学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

  • 光超音波イメージング技術を用いた手掌の血管画像(出所:京大Webサイト)

    光超音波イメージング技術を用いた手掌の血管画像(出所:京大Webサイト)

血管は、加齢や疾患などにより血管の構造が変化することが知られており、健常人と疾患者の血管形状比較によって、生活習慣病などの疾患リスクを評価できる可能性がある。

従来の血管イメージングでは、造影剤が必要であったり、被ばくのあるX線を用いたり、あるいは高価なMRI検査を受けて画像を取得する必要があった。一方、造影剤が不要で侵襲のない超音波診断装置に搭載されているドップラー画像によっても血流画像化が可能だが、その解像度には限界があった。このため、健常人での血管イメージングの研究はあまり行われてこなかった。

研究グループは、生体の血管構造解析の第一段階として、手掌の血管に着目した。光超音波イメージング技術を用いて、20〜50歳代の健常な男女22名の手掌血管を撮像し、動脈が加齢に伴って湾曲する様子を科学的に画像化した。

年齢階層ごとにグループ分けして血管の形状を数値に落とし込み、統計解析を行った結果、加齢に伴って曲率が有意に大きくなっていることがわかった。主に解析した血管は総掌側指動脈と固有掌側指動脈である。

研究グループはこれまで、光超音波イメージング技術を用いて乳がんの腫瘍関連血管の画像化研究を行ってきた。装置の改良により血管の構造が精細に画像化されるようになっただけでなく、乳がんの研究で行ってきた解析のノウハウを応用し、血管の半自動抽出(トレーシング)技術を開発して血管の曲率を計算することができた。

この成果は、生活習慣に起因する動脈硬化の様子を反映していると考えられ、局所の血管状態が全身性疾患の兆候、あるいは発病後はその進行度などを反映している可能性があるほか、先天性の血管変化などの性状の観察も可能と考えられる。

研究グループは、引き続きデータを蓄積してデータの信頼性を高めるとともに、健常血管、病的血管の鑑別法の検討や新しい診断手法の開発などを行う予定だとしている。