鮮やかな緑色をしたうどん、薄紅を刷いたようなピンクの焼きそばーー。聞いただけで身構えてしまいそうな食べ物たちだが、そこには「科学の面白さ」が含まれている。これらの料理は、着色料を用いず、食品に含まれる色素をうまく利用することで、つくることができる。そんな、料理と科学の関係を学ぶ「異色の料理教室」が開催された。
同イベントは2月3日、科学技術振興機構(JST)の主催する「第7回 科学の甲子園 全国大会」のプレイベントとして実施されたもの。タイトルは「料理を科学してみよう!」というもので、教室には理系の進路を目指す女子中高生(リケジョ)たちが集まった。
料理は科学!
講師を務めたのは、「科学する料理研究家」こと平松サリーさん。京都大学 大学院 農学研究科修士課程修了の、料理・科学ライターだ。
「卵を加熱するとタンパク質の熱変性によって硬くなるように、また、生の食品に塩を振ると浸透圧によって水分が出てくるように、料理にはさまざまな科学が隠れています。今日は、食の視点から科学を知ることで、新たな発見をしてほしいと思います」と平松さん。
イベントに参加したリケジョたちに課せられたミッションは「指定された色の料理をつくること」。そのために、まずは基本的な食材の性質の説明がなされた。
「私たちの周りには、さまざまな色の食品があります。これには、その食品がもつ『色素』が影響します。例えば、なすや紫キャベツなどの食品に含まれる『アントシアニン』、にんじんやトマトに含まれる『カロテノイド』、ホウレン草やブロッコリーに含まれる『クロロフィル』などがあります。これらの色素がさまざまな条件から、食品の色に作用しているのです」。
体験してみよう!
説明を受けたのちに、さっそくミニ実験がはじまった。
まずは、野菜の色の変化を観察する実験。紫玉ねぎ、紫キャベツ、みょうががおいてある皿に、お酢をかけ、その様子を観察した。これらの野菜に共通で含まれるアントシアニン色素は、中性では紫色を示すが、お酢をかけることで酸性になると、赤色に変化する。
次は、紫キャベツを煮出した水(紫キャベツ液)の変化を観察する実験。紫キャベツ液が入っている紙コップに、アルカリ性の重曹水、酸性のレモン水を加えて、その色の変化を観察するというものだ。紫キャベツ液にはアントシアニン色素が含まれているため、こちらもpHの変化によって、レモン水を入れた場合には赤に、重曹水を入れた場合には緑に色が変化した。
そのほか、ターメリック液が入った容器に、水と重曹水を加えることで色の変化を見る実験や、そうめんをゆでる際に、重曹を加えることで、麺の色の変化を確認する実験も行われた。真剣に実験に取り組む生徒の姿は、立派な研究者そのものだ。
ミッション開始! ……それほんとに食べれるの!?
ミニ実験を終えると、いよいよ本番。4班に分けられた生徒たちは、それぞれ班ごとに異なるミッションを課された。
「これまで学んだことを参考に、1班は『緑色のうどん』、2班は『オレンジ色のうどん』、3班は『オレンジ色の焼きそば』、4班は『ピンクの焼きそば』をつくってください!」と平松さん。なんとも食欲を失わせる色合いだ……。
ミッションが発表され、料理方法を考える生徒たち。
10分後……
各班が工夫を凝らして悪戦苦闘する中で、最初に「完成!」と声をあげたのは、ピンクの焼きそばを指定された4班だった。
「赤色を出すために、紫キャベツと、お酢を入れました!」と生徒。思った通りの色は出せなかったようだが、その味はどうだろうか。1口食べてもらったところ…「うっ……、酸味が!!」と、予想外のお酢の強さにもだえる生徒たち。どうやら、色を出すことに夢中で、お酢を入れすぎてしまった模様だ。
ほかの班を見渡すと、なにやら禍々しい色の物体をゆでている班があった。「緑色のうどん」を目指す1班だ。「それ何?」と聞くと、どうやら紫キャベツ液を抽出しているとのこと。
そこに、重曹水と麺を投入する1班の生徒たち。すると予想通り、みるみるうちに麺が緑色に変化した。ミッション成功だ。
その後、立て続けにほかの班も、料理を完成させた。各班ともに、お題に近い色の料理を完成させていた。1度チャレンジしてうまくいかなかった班も、失敗の原因を探り、もう一度チャレンジすることで、よりイメージに近い料理をつくることができたようだ。
大切なのは、「考えること」
ミッションを終えた生徒たちが語ってくれた感想としては、「1度目はうまくいかなかったけど、2度目は、その反省をもとにいいものをつくることができた」「予想通りの結果を得るための手段を考えることは難しかったけど、同じ班のみんなで相談して、いい結果が得られたのが楽しかった」といったように、科学が楽しいものであることに理解を示すものが多かった。
中でも、「色を狙って出すのは難しいと思った。人工着色料を使いたくなる気持ちが分かった」という感想は、会場の笑いを誘った。
平松さんは総括として「大切なのは、考えること。みんなが、1度経験したことをもとに、試行錯誤する様子が見られてよかった。大学の研究は、中学・高校までと異なり、予想通りの結果が1発で得られることは少ない。でもそんな時にも、失敗から学べることはある。トライ&エラーを大事にしてほしい」と、『リケジョの先輩』として、参加者に想いを伝えた。
まだまだ若く、選択肢も無数にある彼女たちは、今回のイベントを通してどのようなことを学んだのだろう。イベントに参加したことで、『将来は理系にすすんで研究をしたい』と思った人も少なくないはずだ。そんな彼女たちが今後、どのようなキャリアを歩むかはわからないが、少なからず、今後の転機となるようなイベントだったのではないだろうか。
なお、本番となる「第7回 科学の甲子園 全国大会」は3月16日~19日の期間、埼玉県さいたま市にて開催される。