2017年11月に同社COOであるGren Hawk氏が来日してCanyon Bridgeの買収破綻後の戦略説明を行ったLattice Semiconductorであるが、2月2日にCEOのDarin G. Billerbeck氏(Photo01)が来日、改めて成長戦略について説明を行った。
さて、説明された内容そのものはHawk COOの説明とほぼ同じものであったが、いくつかスライドが足されているのでこれをベースに簡単に紹介する。
基本的には同社はエッジにフォーカスするという戦略は依然として変わらず、従来はEdgeといえばコントロールとコネクティビティであったが、今後はエッジコンピューティングが「エッジコネクティビティと同じように、今は非常にわずかであるが、今後は大きく成長してゆく」とした。ちなみに規模感で言えば、今はコントロールとコネクティビティで4億ドル程度だが、今後エッジコンピューティングをあわせて5億ドル位まで行くのではないか、という話であった。
ちなみに売り上げ別で見ると(Photo02)、従来はLegavy FPGAが多かったが、これが次第にCore FPGAに置き換えられつつある。ただ以前としてLegacy FPGAの比率も馬鹿にならない規模がある。また従来のハンドセット向けの製品は次第に縮小傾向にあるが、その分新しい分野(それこそエッジコンピューティング)の分野がこれを補完する形になる、という見通しであった。
興味深いのはエッジコンピューティングの分野である。基本的には話としては前回と同じであり、同社の製品は1W以下をカバーする話も同じである。
このための方法として、たとえばECP5なら顔追跡が可能(Photo03)だし、iCE40なら1mW未満で顔認識可能(Photo04)であり、BOMコストは1ドル未満とする。
ECP5の場合はCNN(Convolutional Neural Network)、iCE40の場合はBNN(Binary Neural Network)で構築することになるわけだが、昨今多くのベンダがCNN/BNN用のアクセラレータIPを提供し始めており、実際にこれを組み合わせたMCU/MPUなども計画され始めている。あるいはCEVAの様にDSPベースのCNNのソリューションを提供する会社もあるわけで、確かにマーケットは広がるとは思うが、競合も少なくない。これに対する回答は「もちろん将来的には、たとえばBNNはMCUで出来るようになるかもしれない。その頃には、我々はもう少し精度の高い用途向けにシフトすることになるだろう。ただそうなっても、我々は(Xilinx/Altera=Intelの様に)ハイパフォーマンス・ハイパワーな製品に移行する訳ではない。我々のターゲットはあくまでも1W以下だ。この中で差別化をしてゆく」という返事であった。
これに関連して今後のプロセスの話もちょっと出てきた。すでに同社は28nmのFD-SOIに移行する予定を明らかにしているが、この理由の1つとしてSerDesのスピードがあるという。「40nmだとSerDesは1.2Gbps程度だが、28nm FD-SOIだと2.5Gbpsまで高速化できる。たとえばカメラが、今の1080Pから4Kとかに移行するとなると、当然データレートも上がることになる。28nm FD-SOIだとこうした高いデータレートを必要とするケースでも対応できる」という話であった。またFD-SOIでもGLOBALFOUNDRIES(GF)や、最近STMicroelectronicsが採用を決めた22nm FD-SOIに関しては「むしろ高コストになる」ので、移行する予定は無いという話だった。理由は配線層の作りこみに、よりコストがかかるからという話であった。同社の場合は低コストと低消費電力が最大の売りな訳で、22nmのFD-SOIに比べると28nmのFD-SOIの方がバランスが良い、ということだそうだ。
ところで前回の記事の最後で、同社の赤字体質についてちょっと言及したが、2017年第3四半期の決算を見ると
- 売上:9197.1万ドル
- 粗利: 5332.2万ドル
- 営業損失:3746.8万ドル
- 純損失:4305.2万ドル
という相変わらずの状態である。ちなみに営業利益が赤字の要因はいくつかあるが、大きなものでは
- 営業経費:2129.0万ドル
- R&Dコスト:2564.8万ドル
- のれん代償却:3619.8万ドル
といったところで、のれん代の償却がほとんど営業損失になっている状態である。そこでストレートに「いつ黒字転換するでしょう」と確認したところ「まず最初に断っておけば、キャッシュフローベースでは、我々は十分な蓄えがある。それはともかくとして、Canyon Bridgeによる買収がなくなったので、のれん代の償却の必要がなくなった。だから次の第4四半期は、まだ微妙に純損失が出るとは思うが、ほぼイーブンに近いところまで持って行けると思う。そして黒字転換は2018年の第2四半期あたりを見込んでいる。ただし、これは非GAAPベースの話なので、GAAPベースだともう少しかかるかもしれない」という返事であった。
確かに2017年第3四半期末での現金および現金等価物の総額は1億797.7万ドルを保有しているから、短期的に同社のオペレーションが成り立たなくなる事は考えられないが、そうはいってもいつまでも赤字を垂れ流すわけにもいかない。その意味では黒字転換への明確な道筋が明らかにされたのは、喜ばしい事と考えてよいだろう。