京都大学(京大)は、同大の研究グループが、京都市産業技術研究所・京都バイオ計測センター、黄桜酒造と共同で、ノンターゲットメタボローム解析を用いて、山廃(やまはい)特別純米酒(大吟醸酒相当)のおいしさの謎を解く新しい物質を発見したことを発表した。

この成果は、京大農学研究科の植田充美教授、同・青木航助教、 立上陽平氏らによるもので、1月3日に米国の科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

  • 超ロング(200cm)モノリスキャピラリーカラムを装備したナノLC/MS/MS装置(出所:京大Webサイト)

    超ロング(200cm)モノリスキャピラリーカラムを装備したナノLC/MS/MS装置(出所:京大Webサイト)

清酒の輸出は増加傾向にあり、京都が誇る特別純米酒(大吟醸酒相当)は香りの数値化に成功し、今や世界中に輸出されて好評を博している。一方で、美味吟醸酒の製法過程は杜氏の勘に頼っており、おいしさの謎は残ったままとなっていた。

研究グループは、豊かな香りが特徴の大吟醸酒作製に、酵母・麹菌・乳酸菌による並行複発酵を特徴とした日本古来の酒造り「生もと(きもと)造り」を基盤として、吟醸酒に相当する黄桜酒造の特別純米酒である山廃仕込み酒について、その香りを損なう成分を同定してきた。

さらに、そのおいしさの謎を解く分子を見つけるために、京都モノテックが開発した超ロングモノリスキャピラリーカラムを装備したナノLC/MS/MSという装置を用いて、不明な代謝物を明らかにするノンターゲットメタボローム解析を行い、発酵過程での代謝物の変動を解析した。

中程度の大きさの分子に着目した結果、6つの化合物が日本酒の発酵過程を特徴づけるものとして新たに特定された。そのうちふたつは、旨味と関連する呈味性化合物であると予測され、残りの4つは、ロイシンまたはイソロイシン含有ペプチドとして同定された。特に後者は、乳酸菌と米のタンパク質から生じたと予測された。

これらの化合物が、発酵過程で徐々に増加することによって吟醸酒のおいしさを損なう共雑物をマスクし、味覚に影響を与えずに酒を吟醸酒に仕立てる興味深い物質である可能性を示唆している。

この成果により、これまでは杜氏の勘に頼っていた美味大吟醸酒の製法過程を化学分子の眼で査定できるようになり、安定したおいしさが維持されるばかりでなく、安価に供給できる道も広がることが期待される。

この成果をもとに、 黄桜酒造から先行限定品として山廃特別純米酒「のろし」が発売された。さらに、通常品として「生酛山廃特別純米酒山田錦」も発売され、品質の安定したおいしい大吟醸酒をどなたでも気軽に味わうことができるようになったということだ。