順天堂大学は1月26日、前頭極と呼ばれる大脳皮質前頭葉領域が、過去に経験していない事象に対する確信度に対する自己評価を司ることを発見したと発表した。
同成果は、順天堂大学 大学院医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センターの宮本健太郎 研究員、生理学第一講座の長田貴宏 助教、老人性疾患病態・治療研究センターの宮下保司 特任教授らによる順天堂大学・東京大学の共同研究グループによるもの。詳細は、米国の学術誌「Neuron」(オンライン版)で発表された。
生活の中で得る、新たな出会いや経験を「新しい」と自覚する能力は、変化の激しい自然や社会環境の中で生き延びるのに必要不可欠だ。しかし、この能力は、自身の記憶を網羅的かつ内省的に探索し、その結果をもとに自身の「無知」を自覚するという、高度な認知情報処理を必要とする。
先行研究により、マカクサルにおいて、前頭葉の一部の領域が、記憶そのものの処理には関与せず、既知の出来事の記憶に対する確信度判断に貢献すること、および未知の出来事に対する確信度判断には寄与しないことが分かっていた。
研究グループは今回、ヒトに顕著な能力の1つである「無知の知」の進化的な起源を探るため、サルの脳において未知の出来事に対する確信度判断を担う領域の同定を試み、大脳皮質の神経回路レベルで未知および既知の事象に対する「メタ認知」処理がどのように行われているかを明らかにした。
まずはマカクサルに対して、メタ認知に基づいた意思決定を行うことができるかを調査した。調査方法は、サルに図形を見せ、そのリストをもとに再認記憶課題を実施するというもの。その際、回答に自信があるかをレバーで示させ、「自信があって正解」には報酬を与え「自信があって不正解の場合」には何も与えず、「自信がない」場合には常に報酬を与えた。その結果、「自信がある」とした場合の正解率が高いことが分かり、サルがメタ認知に基づいて確信度判断を行っていることが確かめられた。
さらに研究グループは、課題遂行中のサルの全脳の神経活動を計測。すると、前頭葉の前頭極と呼ばれる領域が、未知の図形に対するメタ認知課題の成績と比例して活動を強めることが明らかになった。一方で、既知の図形に対するメタ認知課題の成績と前頭極の活動の間に相関はなかった。
加えて、前頭極における一部の神経活動を抑制したところ、新規の図形を正しく未知だと分類する成績に変化はないものの、未知の図形への主観的な確信に基づいて報酬を最大化する行動がとれなくなった。これらの結果により、前頭極の活動が、無知に対する自己意識を因果的に生み出す働きを担っていることが示唆された
研究グループはこれらの成果に関して、「自身の思考プロセスに対して思考を加えるメタ認知処理を行う際に働く大脳メカニズムを解明したもの」だと説明しており、「今後、脳機能の科学的根拠に基づいた効果的な教育法や、認知機能障害のリハビリテーション法の開発に貢献することが期待される」としている。