東京大学は、「統合失調症患者における大脳皮質下領域の視床体積は健常者に比べて小さい」という既知の報告を、MRIを用いて再現し、統合失調症の社会機能障害には、大脳皮質下領域における視床の体積異常が関与していることを見出したと発表した。
同研究は、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の越山太輔氏、笠井清登教授、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、1月19日に「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
統合失調症において、認知・社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたすが、その病態は未だ明らかになっていない。近年の統合失調症の脳構造に関する研究では、健常者との比較で、前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少や、大脳皮質下領域の体積減少が報告されてきたが、統合失調症における大脳皮質体積と認知・社会機能との関連については既に報告があるものの、大脳皮質下領域の体積と認知・社会機能との関連は、報告が少なく十分に明らかになっていなかった。
そこで同研究では、統合失調症における認知・社会機能障害と大脳皮質下体積との関連を網羅的に観察する研究が行われた。まず、統合失調症患者163名と健常者620名の構造MRI画像を用いて、大脳皮質下領域である海馬・側坐核・視床・扁桃体・尾状核・被殻・淡蒼球の左右それぞれ14部位の体積を算出し、年齢・性別・頭蓋内容積・MRI機種による影響を補正した。認知機能と社会認知機能の測定にはウェクスラー成人知能検査WAIS-IIIを用い、日常生活技能の測定には簡略版UCSD日常生活技能簡易評価尺度UPSA-Bを用いた。そして、補正後体積値とWAIS-IIIにより得られる知能指数(IQ)、その下位検査評価点、UPSA-Bの下位項目の評価得点との相関を観察した。
その結果、統合失調症における両側の海馬・扁桃体・視床・側坐核の補正後体積値は健常者と比べ有意に低下し、右側の尾状核・両側の被殻・両側の淡蒼球の補正後体積値は健常者と比べ有意に上昇していた。また、WAIS-IIIのIQ、下位検査の評価点およびUPSA-Bの評価得点はすべて健常者に比べて低い結果となった。認知機能については、統合失調症で特に評価点が低かった符号課題の評価点(WAIS-III)と右側坐核の体積値が正の相関を認めた。さらに、社会認知機能を反映する理解課題(社会通念の理解)および絵画配列課題(文脈の理解)の評価点や、日常生活技能を反映するUPSA-Bの合計得点(金銭出納やコミュニケーション能力)が右視床体積値と有意な正の相関を示した。
社会機能をよく反映する指標が右視床体積値と相関したという所見は、視床の異常が前頭葉と視床間の神経回路に異常をもたらし、統合失調症の社会機能低下に関連している可能性を示しており、統合失調症の病態解明の一助となることが期待される。さらに、統合失調症の社会生活機能障害のリハビリテーション法の開発に科学的理論をあたえ、新たな治療法の開発に貢献すると考えられるということだ。