天使の羽がここについていたのかもしれない肩甲骨は、じつは体の他の骨に関節でつながっているのではない。人間の場合、鎖骨にタンパク質の繊維でくっついているだけだ。それでも、鎖骨とつながっているわけだから、生きているうちは決まった位置にある。

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    図1 ネコの骨格。前脚(前肢)の最上部が肩甲骨で、その上端から肋骨と背骨が、それぞれ腹鋸筋(ふっきょきん)と菱形筋(りょうけいきん)でつり下げられている。体には、左右にぶれたり上下に動いたりする「ロール」「ピッチ」「ヨー」と呼ばれる力が働く。今回の研究では、この力を分析した。「前肢(ぜんし)」は、脚部と足首から先を合わせた、まえあし全体のこと。(図はいずれも藤原さん提供)

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    図2 肩甲骨が体の低い位置(左)、高い位置にある場合のトリケラトプスの姿勢。この研究によると、正解はおそらく右のトリケラトプス。

しかし、恐竜の肩甲骨はどの位置かというと、それはよく分からない。化石になると他の骨と分離してしまい、位置関係がはっきりしなくなるからだ。骨格を復元する際にとくに問題になるのは、トリケラトプスのように4本の脚で歩いていた四足恐竜の場合だ。肩甲骨からは前脚が出ているので、肩甲骨が体のどこに位置していたかで、上半身の姿勢が変わってくる。肩甲骨が脇腹の低い位置にあれば、そのぶんだけ体が立ち気味になる。肩甲骨が背骨近くの高い位置にあれば、頭は下がり気味になる。博物館などにある復元骨格では、肩甲骨の位置はまちまちなのが実情だ。

四足恐竜は、いったいどんな姿勢だったのか。名古屋大学博物館の藤原慎一(ふじわら しんいち)助教がこのほど発表した論文によると、頭をやや低くした姿勢が正解らしい。

絶滅したとはいえ、トリケラトプスなどの四足恐竜も、ネコやネズミと同じ四足歩行の動物であるからには、肩甲骨は似た位置にあるはずだ。実際にネコ、ネズミ、カメレオンを調べてみると、前脚の起点となる肩甲骨はいずれも背骨のすぐ脇にあり、前後関係でいうと、かなり頭に近い前方の肋骨(ろっこつ)のあたりに位置していた。この肩甲骨の上端と肋骨を結ぶ筋肉などで、胴体がつり下げられている。

四足歩行の動物では、なぜ肩甲骨が同じような位置にあるのか。なにか必然的な理由があるのか。藤原さんは、ネコ、ネズミ、カメレオンの骨格の動きをコンピューターで模擬して調べてみた。その結果、体を必要以上にクネクネさせたり上下させたりせずに、全体としてバランスよく滑らかに歩くには、肩甲骨の位置は、ほぼこの近辺に限られることが分かった。さらに、肩甲骨から筋肉で肋骨をつり下げたとき、肋骨を骨折させる力の発生が小さくなる肩甲骨の位置を計算すると、まさにネコやネズミと同じになった。肩甲骨の位置には、二つの意味で必然性があったことになる。四足動物の肩甲骨の位置は、どこでもよいわけではない。

四足恐竜についてもこの考え方があてはまるとすれば、肩甲骨は脇腹の低い位置ではなく、背骨に近くて、しかもかなり前方の位置にあり、その高い位置から胴体をつり下げていたはずだ。したがって、上半身の背骨や肋骨は全体として肩甲骨より低く、恐竜は頭を下げ気味の姿勢をとっていたことになる。藤原さんは、「肩甲骨の位置は、ワニやカエルを含むほとんどすべての四足動物に共通だ。恐竜についても、これ以外の位置は考えにくい」と話している。

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