北海道大学は、涙(涙液)中の脂質の炭素鎖長が短いマウスを作成し、脂質の長さがドライアイ防止に重要であることを解明したと発表した。同研究成果により、新しいドライアイ治療薬の開発につながることが期待されるということだ。
同研究は、北海道大学大学院薬学研究院の木原章雄教授らの研究グループによるもので、同研究成果は1月17日公開の「FASEB Journal」に掲載された。
ドライアイの防止に必要な涙(涙液)は、脂質層(油層)、水層、ムチン層の三層から構成されており、最も外側にある脂質層は水分蒸発の防止や感染防御に重要な役目を果たしている。涙液に存在する脂質は脂質はまぶたの裏側のマイボーム腺から分泌されるマイバムと呼ばれる鎖のような分子で、炭素鎖長はC20-C34(炭素の数が20個〜34個)と極めて長い特徴がある。しかしこれまで、マイバムの鎖長が長いことは知られていたが、長さの生理的意義や、これらの極長鎖マイバムの産生メカニズムは不明となっていた。
過去の研究では、全身のElovl1遺伝子を欠損したマウスは、皮膚バリア形成不全によって生まれてすぐに死亡することがわかり、極長鎖脂肪酸産生が皮膚バリアの形成に重要であることが明らかとなっている。しかし、このマウスは生まれてすぐに死亡してしまったため、他の組織における極長鎖脂肪酸の役割の解明には至っていなかった。そこで同研究グループは、脂肪酸の鎖長を伸ばす酵素のひとつであるELOVL1の遺伝子(Elovl1)が、表皮以外で欠損(KO)したマウス(Elovl1表皮以外KOマウス)を作成した。このマウスを解析したところ、若齢期では瞬きの頻度が高く、涙液の水分蒸散量が増えるというドラ イアイの症状を示し、5ヶ月齢を超えたマウスの多くでは角膜が混濁していた。この異常は、長期間のドライアイによって傷ついた角膜の修復が追いつかずに引き起こされたと考えられるという。
これらの結果から、ELOVL1が極長鎖マイバム脂質の合成に関与していること、マイバムが涙液バリアとして機能する(ドライアイを防止する)ためには長い炭素鎖長が重要であることが示された。ドライアイの原因の約8割は脂質層の異常だが、現在、脂質層をターゲットにした薬剤は存在していない。今回の研究成果によって、極長鎖マイバムがドライアイ防止に重要であることが明らかとなったことで、極長鎖マイバムの産生または分泌を増やす薬剤や極長鎖マイバムを含んだ目薬など、ドライアイを治療・予防する新しい薬剤の開発につながると期待されるということだ。