日本マイクロソフトは1月18日、昨年の5月23日 開発者向けイベント de:code で発表した、Preferred Networks (PFN)との戦略協業に関する最新状況を紹介するとともに、最近の同社のAIに関する動向を説明した。

この協業は、両社の深層学習関連技術を組み合わせて、深層学習関連のソリューション開発を行うこもので、1月18日、プロジェクト「ONNX(Open Neural Network Exchange)」にPFNとマイクロソフトのDeep Learning Framework 「Chainer」 が参加することが新たに発表された。

  • PFNとの協業

ONNXは、マイクロソフトとFacebookによる共同プロジェクトで、異なるディープラーニングフレームワーク間でAIモデルの相互運用性の実現を図る取り組み。

マイクロソフトはAI関連ソリューションとChainerを統合する取り組みも進めており、Azure Data Science VMへChainerを同梱している。また、ChainerMNとInfiniBand搭載のAzure GPUクラスタを活用し、128GPU上で100倍の学習速度の速度向上を実現することで、深層学習における課題であるニューラルネットワークの学習時間の増大に対応。手間のかかる複数ノードへの展開を自動化するための Azure Resource Manager Templateの作成やXtreme Design社との協業も進めている。

そのほか、深層学習の開発者を増やす目的で、コミュニティ「Deep Learning Lab」を設立し、情報発信やセミナーの開催を行っている。現在は基本部分のセミナーだが、今後は業界に特化したAI学習のセミナーを行っていくという。

また、Deep Learning Labでの活動をきっかけに、企業での深層学習プロジェクトも進んでおり、アイシン・エィ・ダブリュではの深層学習を用いたカーナビゲーションシステムにおける描画異常検知システムに、マネックス証券は文書校正ツールに応用している。

アイシン・エィ・ダブリュでは、数万回に1回という頻度でしか発生しない描画異常を、InfiniBandで接続されたGPU仮想マシンで効率的に学習しているほか、マネックス証券では、文章校正用に深層学習ツールを開発。創業以来蓄積してきたデータを使って学習を行い、開発を3カ月で完了したという。

  • アイシン・エィ・ダブリュのDeep Learning Labの利用

日本マイクロソフトと 執行役員 最高技術責任者 榊原彰氏

Deep Learning Labでは、3日間のコースで20万円という深層学習のハンズオンを開催しているが、経済産業省から「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」(通称「Reスキル講座」として認定されたため、今後は7割について補助を受けることができるようになったという。これにより、一層の受講層拡大が見込まれ、日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 榊原彰氏は、「この半年で1700人がセミナーに参加しているが、今後は3年間で5万人の技術者を育成することを目標にやっていきたい」と述べた。

Everyday AIの時代に向けて

榊原氏は、最近のマイクロソフトAIに関する最新動向も説明。

同氏は「Everyday AIの時代に突入しており、マイクロソフトはAIに関して、AI自体の研究、AI製品の作成既存の製品にAIを入れていくアプローチ、AIプラットフォーム、上位レイヤアプリに導入することに集中的に投資している。すでに76万人の開発者がCognitive Servicesを使ったAIを開発している」と述べた。

同氏は代表的なもの成果としてSeeing AIアプリ(目の見えない人を支援するAIアプリ、英語圏のみ提供)を挙げた。このアプリはすでにApp Storeで10万以上ダウンロードされているという。

Seeing AIは最近アップデートされ、お金や色彩を認識できるようになったほか、明るさの検知機能も搭載されたという。

  • Seeing AI

また、言語理解のためのアプリ(Language Understanding Service)やAzure Bot Servicesの一般提供も開始されたほか、Microsoft GraphのAPIの拡充も進んでいるという。

榊原氏は、「グラフはAIを使って、ビジネスデータをビジュアル化して、InSightを得ることが一般的になる」と語った。

今後はAIをOffice 365にも拡張し、Wordの中で使用されている略語の意味をお知らせする機能や、ExcelにはテーブルをAIが解釈して、グラフを自動表示する機能が追加されるという。

ヘルスケア領域では、遺伝子検査を行うAdaptive Biotevhnologiesとパートナー契約を結び、血液の免疫細胞や抗原を探し出す作業にAIを活用しているほか、遺伝子編集技術にも利用しており、切り取る配列のエラーをなくすために、機械学習を利用する取り組みも行っているという。

そのほか、マイクロソフトリサーチでは、「AirSim」という自動運転の動作検証に関するシミュレーターの開発も行っており、ドローン、自動車、船舶領域で利用されているという。ここでは、画像を利用して仮想空間を作り、追突などのトラブルをAIを使って効率よく学習することに利用しているという。

  • 「AirSim」

また、文章を読んで内容を理解し、質問に答えるといった読解力においては、スタンフォード大が作ったデータセット「Stanford Question Answering Dataset(SQuAD)」において、アリババとともに、人間のスコアを超える数値を出したという。

さらに、地球環境ためのAI「AI for Earth」も開発しており、今後、5年間で5000万ドルの投資を行っていくという。AI for Earthでは、水資源、気候変動、生物の多様性をAIで解決する取り組みのほか、センサーデータの解析、ドローンによる地表温度の解析など、農業のための知見蓄積にも利用していくという。