科学技術振興機(JST)は、鶏卵の卵白たんぱく質から高強度ゲル材料である「卵白たんぱく質凝縮体ゲル」を作製することに成功したと発表した。同素材は、ゆで卵の白身の150倍以上の圧縮強度を示し、生分解性があるため医療用素材としての応用も期待される。
同研究は、中国・東南大学 生物電子学国家重点実験室の野島達也 准教授(研究当時:東京工業大学 科学技術創成研究院 特任助教)、同志社大学 ハリス理化学研究所の彌田智一 教授(研究当時:東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)らの研究グループによるもので、同研究成果は、1月5日に英国科学誌「NPG Asia Materials」(オンライン版)で公開された。
同研究グループは、金属やセラミクスに代わる次世代の材料として食品たんぱく質に注目し、鶏卵の白身を加熱すると固まる現象を応用した新材料開発に取り組んだ。白身のたんぱく質は、加熱前は水に溶けた状態で存在しており、加熱すると変性して不均一なネットワーク構造を形成して水を含んだゲルとなって固まるが、このゲルは強度が低いためそのままでは材料として利用することができない。同研究グループは、ゲル化した白身の強度が低いのは不均一な構造が原因と考え、2016年、水中のたんぱく質にイオン性界面活性剤を加えることで一瞬で凝縮させ、一定間隔に集積させる技術を開発した。今回の研究では同技術を応用し、卵白たんぱく質を一定間隔に集積させた上で加熱すれば、均一な構造を形成した強度の高いゲル材料を作製できると考えたということだ。
鶏卵の卵白には100種類以上のたんぱく質が含まれており、そのうち数種類のたんぱく質が、卵白の加熱ゲル化現象に主に関わっている。しかし、特定のたんぱく質の精製は時間と費用のかかる作業であるため、同研究では未精製の卵白たんぱく質が実験に用いられた。卵白たんぱく質に、同研究グループが開発した陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤を一定の割合で添加すると、ゲル化現象に関わるたんぱく質を含む透明液状物質(卵白たんぱく質凝縮体)が水相と分離して発生する。これを70度で加熱すると、白く不透明に固まり、内部に80%の水を含むハイドロゲル(卵白たんぱく質凝縮体ゲル)となった。同素材は、たんぱく質分解酵素によって分解されたため、たんぱく質によってネットワーク構造が形成された生分解性物質であることが確認された。
続いて、同素材の圧縮強度を測定したところ、17分の1の厚みに薄くつぶれるほどの柔らかさを持ちつつも、最大で34.5MPaと通常のゆで卵の白身の150倍以上の強度を示し、化学的に合成された高強度ハイドロゲル材料とも遜色ない強度であることが確認された。また、同素材のネットワーク構造を、たんぱく質のシステイン残基の修飾試薬やたんぱく質変性剤などを用いて分析した結果、内部では変性したたんぱく質同士のジスルフィド結合による共有結合ネットワークと、疎水相互作用による非共有結合ネットワークという2種類の性質の異なるネットワーク構造が形成されていた。これらのネットワーク構造は、通常のゆで卵の白身でも形成されているが、それが均一に形成されることで高い強度を示すことができたと考えられるということだ。
同研究で得られたゲル化メカニズムを他のたんぱく質に応用することで、体内に残留せずに一定期間後に吸収されるような医療用素材など、実用的な強度を持つ機能性材料の開発を目指すという。また、新たな食感を持つ食品開発への応用も期待されるということだ。