国立天文台は1月12日、超大質量ブラックホールの自転が、宇宙の遠方から届く電波の源である「高速ジェット」の形成に役立っている可能性があることを突き止めたと発表した。

同成果は、国立天文台のAndreas Schulze研究員が率いる研究チームによるもの。詳細は米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

ブラックホールは、あらゆる電磁波を吸収するため、その姿を直接的に観察することができない。一方、ブラックホールの周辺では、ブラックホールに向かって落ち込みながら超高温になった物質で降着円盤が作られ、そこからの光が見えるため、それを観察することで、ブラックホールの存在を確認することができる。

こうした降着円盤を持つブラックホールは「クエーサー電波源(クエーサー)」と呼ばれる。その中で、全体の1割程度は強い電波を放つクエーサーとして知られるが、そうしたクエーサーでは、降着円盤内の物質の一部がブラックホールに落ち込まず、ブラックホールの両極から高速のジェットとして吹き出していると考えられているにも関わらず、どのようにジェットが形成されるのかについては良くわかっていなかった。

そこで研究チームは、今回、ブラックホールの周囲と降着円盤から放射された酸素イオンの光を測定し、その強さから、中心のブラックホールの自転速度の計算を試みた。

8000個近くのクエーサーを解析した結果、電波が強いクエーサー、つまり高速ジェットを伴うブラックホールは、そうでないクエーサーに比べて酸素イオンの光が平均で1.5倍ほど強いことを発見したという。

この成果についてSchulze研究員は、「電波が強いクエーサーと弱いクエーサーの違いがブラックホールの自転だけで決まっているという意味ではありません。しかし、自転を抜きに考えることができないことは確かです。宇宙の遠方から届くブラックホールという怪物の声の大きさをその自転速度が決めている可能性があるのです」とコメントしており、ブラックホールの自転がジェットの形成に重要な要素であることが示されたとしている。

  • 超大質量ブラックホールの周りの降着円盤の想像図

    超大質量ブラックホールの周りの降着円盤の想像図 (出所:国立天文台Webサイト)