京都大学(京大)は、サルを用いて脊髄損傷により傷ついた神経の再生を促し、一度失われた霊長類の手指機能を回復促進させる抗体治療に成功したことを発表した。
この研究成果は京都大学 霊長類研究所の中川浩氏、高田昌彦教授、大阪大学の山下俊英 教授によるもので、1月5日付けで、英国雑誌「Cerebral Cortex」で公開された。
脊髄には脳と手足の筋肉とをつなぐ神経線維があり、大脳からの運動指令を手足に伝えている。脊髄が傷つくと、脳からの指令が適切に筋肉に運ばれなくなり、手足に麻痺症状が出る(脊髄損傷)。中枢神経障害後の運動機能回復の中でも、手指運動機能の再建は極めて難しく、日常生活レベルで必要とされる手指の器用さは再獲得が難しいのが現状であった。
これまでの研究で、霊長類では脊髄損傷後も時間が経つとある程度の手指運動機能回復がみられること、さらにわずかながら一度損傷を受けた神経軸索から軸索枝が損傷部位を越えて伸長・分岐するという現象が確認されている。また、げっ歯類を用いた研究でも、中枢神経が再生しにくい原因が少しずつ明らかにされてきたが、いまだ有効な治療法の確立には至っていなかった。また、ヒトに応用するには種ごとの神経回路構造の違いについても考慮が必要である。
同研究グループは、神経軸索の再生を効果的に高めることができれば運動機能の回復を促進させることができるのはないかと考え、ヒトと類似した神経回路構造をもつ霊長類を対象として、脊髄損傷後の運動機能回復を促進させる抗体治療に取り組んだ。
研究では、Repulsive guidance molecule-a (RGMa)というたんぱく質に着目。抗RGMa抗体を用いて脊髄損傷後、損傷周囲部に増加するRGMaの作用を阻害し、その神経軸索の再生力や運動機能回復に対する効果を検討した。
まず、片側の手指に麻痺症状が出現するように脊髄を損傷させ、その後14週間にわたり手指の器用さが回復する過程を解析した。抗RGMa抗体は、脊髄損傷直後から4週間損傷周囲部に持続投与した。
また、治療効果を明らかにするため、RGMa抗体投与群、対照群(疑似抗体を投与)を比較検討したところ、RGMa抗体投与群は対照群に比べて顕著な運動機能回復が観察された。
結果として、霊長類において脊髄損傷後のRGMa抗体治療が、神経軸索の再生力および運動機能の回復を促進させる有用な手段のひとつであることが分かった。
研究者のひとりである高田教授は、「本研究成果は、今後、運動機能回復を促進させる治療手段や運動機能回復に伴う職業・社会復帰向上の一助となることが大いに期待されます」とコメントしている。