東京大学は、同大の研究グループが、手で触れる空中ディスプレイ向けに3次元空間を飛び回る、直径4ミリメートル・重さ16ミリグラムという小型・軽量のLED内蔵発光体を開発したことを発表した。
この研究成果は東京大学の高宮真准教授、川原圭博准教授、星貴之氏と慶應義塾大学の筧康明准教授らの研究グループによるもので、1月9日、論文誌「Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies (IMWUT)」にオンライン公開された。
空中に3次元映像を投影する「空中ディスプレイ」に関して、さまざまな方式の研究開発が進められている。これまでは鏡を利用した光学方式が主流となっていたが、視聴者がリアルな体験をする上で、3次元映像を手で触れない点が課題となっていた。
そこで、3次元空間中を自由に移動でき、自ら発光し、手で触れるという3つの要件を備えたミリメートルサイズの極小発光素子を開発した。この発光体は蛍のように光ることから、ゲンジボタルの学名より「Luciola(ルシオラ)」と名付けられた。
これまでの超音波集束ビームを使用した小型浮遊物体は、騒音なく高精度に浮遊・移動できるものの、電子回路を持たず、直径数ミリメートル以下の発泡スチロール球のようなごく軽いものに限られていた。
そこで今回、物体の空中浮遊・移動技術として超音波集束ビームを用い、エネルギー供給技術として無線給電を用いた。電池の不要化とLED点灯に必要な無線給電用の受信回路の専用IC化の2点を工夫することで、小型・軽量化を実現し、直径4ミリメートルの半球形状で、重さ16ミリグラムの空中移動する発光体の作製に成功した。この「空中移動する小型電子回路内蔵発光体」の実現は、世界初の成果だという。
ルシオラの特長を生かし、手で触れる空中ディスプレイの実現に向けた発光画素のデモとして、空中移動と無線給電をオンオフするタイミングを合わせて制御することにより、空中の位置に応じてLEDを点灯・消灯し、3次元空間内に文字や図形を表示したり、読者の視線の動きに合わせて本の上の空中を移動するマイクロ読書灯を可能にした。
今後は、空中ディスプレイの表現力をより高めるために、発光物体の個数を増やすことによる発光画素の多点化に取り組む予定だという。さらに、空中移動する小型電子物体に対してセンサー、アクチュエーター、無線通信機能などを追加することにより、空中移動可能な小型のセンサーノードとしてIoT分野へ展開する研究に取り組んでいくとしている。