国立遺伝学研究所(遺伝研)は、同所の水野秀信助教、岩里琢治教授らの研究グループが、生後5日目の赤ちゃんマウスのヒゲの感覚を処理する神経回路における「試運転」を可視化し、パッチワーク状をした新しいタイプの自発神経活動を明らかにしたことを発表した。この成果は1月2日、米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。
ヒトをはじめとする哺乳動物の脳では、多数の神経細胞がネットワークを形成し、様々な情報処理が行われている。
哺乳動物の脳では胎児期に遺伝情報によって神経回路が大まかに作られた後、胎児期の後期から子供の時期にかけて、それらを「使いながら調整」(試運転)して完成させるというステップが必要であることがわかっている。しかし、脳の中で実際に何が起きているのかについてはよくわかっていなかった。
このたび研究グループは、マウスのヒゲ感覚を担う大脳皮質体性感覚野をモデルとして、この課題に取り組んだ。夜行性動物であるマウスは優れたヒゲ感覚を持ち、個々のヒゲからの感覚情報を処理する数百個の神経細胞は体性感覚野において集り、 「バレル」とよばれる構造を形成している。
このバレル神経の活動パターンを観察するために、蛍光タンパク質によって可視化して観察したところ、神経回路の調整が活発におこなわれる生後5日目の赤ちゃんマウスでは、ヒゲの刺激なしに体性感覚野の神経細胞がバレル毎に同期して興奮(発火)することがわかった。
この新しいタイプの自発的神経活動は、体性感覚野全体でみるとパッチワーク状にみえることから、「パッチワーク活動」と名付けたという。一方、ネットワーク完成後の生後11日目では、同じバレルに属する神経細胞であってもばらばらに発火するようになったことから、パッチワーク状の発火は、ネットワークの試運転中にだけみられる特徴であることが判明した。
この成果は、子どもの脳の発達、およびその破綻による発達障害や精神疾患の理解につながることが期待される。