さまざまなシーンでのクラウドの活用、そしてIoT機器の普及を受ける形でIntelは、事業の主軸をかつてのPC向けCPU企業からクラウドやスマートデバイスを提供する企業へと移そうとしている。
そんな同社が現在、将来の重点分野として掲げているのが、「AI・機械学習」「IoT」「5G」「自動運転」、そして「ヘルスケア(ライフサイエンス)」の5つである。中でもAI分野は、近年、もっとも伸びている分野であり、さまざまな産業での活用が進められている。ヘルスケア分野についても、AIが医師に疾病に対する知見を提供したり、画像やゲノムのスクリーニングデータから疾病の早期発見を可能とするといった動きや、新薬開発の効率化、といった取り組みなども進められるなど、活用が進むほか、ウェアラブル機器によるバイタルサインの取得や、そのデータを5Gを用いて送信といったように、ほかの重点分野の技術をも内包する形で、事業強化が図られている。
背景には、世界的に医療費の支払いが問題になってきており、変革が求められるようになっていることが挙げられる。例えば、米国合衆国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services:HHS)は、ヘルスケアに関する資源利用として、高齢者および障害者向け公的医療保険制度であるメディケアの支払いを、量ではなく、質へと転換していこうという流れを示している。これは、患者の入院に関して、定められた品質計測方法で計測したヘルスケアデータとして、The Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS)に提供することともに公表することと引き換えに、若干高めの支払いを受ける、というもので、簡単に言うと、医療報酬を1回あたりの診療に支払うのではなく、そこで生み出されたトータルのエピソードに対して支払うというモデルとなっている。
こうした取り組みは、ヘルスケアのブランディングを、個人から国家レベルまで、さまざまな段階で行う必要性を求める流れを生み出すこととなる。Intelも、どうやってそういった変化に対応するのか、リサーチを進めているとのことで、半導体デバイスというもののみならず、ソリューションとしての提供も考えていきたいとする。
実は、これまでも同社は、さまざまな健康・医療システムやサービスをシームレスに扱えることを目標とした「コンティニュア・ヘルス・アライアンス (コンティニュア)」に参画するなど、ヘルスケアのデジタル化に向けて取り組んできた。しかし、これまではほかの産業ではすでに導入されているような技術であっても、医療では、さまざまな規制も含め、障壁があり、まだまだ黎明期とも言える状況が続いてきた。
しかし、近年になってアーリーアダプタやディスラプターといった存在が、医療分野に変革をもたらしつつある。例えば、オンラインヘルスケアサービスが登場したことで、医師の診断を世界中のどこにいても受けることができるようになった。こうしたデジタルヘルスケアの推進には、Intelは「ビッグデータ(データ連携)」、「スマートコミュニティ(IoT)」、「オンデマンド(セキュアクラウド)」、「信頼性(セキュリティ)」、「接続性(パーセプチャル・コンピューティング)」、「革新的な労働力(ビジネス・クライアント)」の6つの要素をあげており、中でもビッグデータが変革の核となるとの見方を示している。
生体情報を常時取得し、そうしたデータをもとに、意味のある洞察を行い、AIを活用して高度な解析を実現することで、疾病の早期発見を支援することが可能になるためだ。もう1つ、こうした取り組みを支援する存在がスマートであることだ。つまりオンデマンドでケアを「いつでもどこでも提供できる」という状態を作りだすためのウェアラブルのようなデバイスの存在であったり、ネットワークなどのセキュリティの確保。特に、医療画像は、データがたこつぼ化しており、MRIやCTが高性能化して、取得される画像データが増えても、その94%は、その病院のその治療でのみ活用されるだけで、共有されていない。これが電子カルテと紐づいたデータとして医療従事者間で共有されれば、新たな患者に対する知見の提供などにつながり、最適な治療、つまるところの個別化医療の実現にも道筋をつけることとなる。
こうした個別の患者に対する精密な医療を構成する要素がアナリティクスであり、それがなければゲノムシーケンスで得られたゲノム情報に意味を持たせたり、生活環境との関連性を導きだしたりすることもできない。ヘルスケアとAI、その両方を推し進めてきたIntelは、そうした意味ではベストポジションにおり、デジタルヘルスケアのリーダー的なポジションの確保に向けて、強気の姿勢を崩さない。
「ヘルスケア分野のあらゆる階層でパートナーシップの締結を進めていく」。Intelのアジアパシフィック・ジャパン担当 ヘルス・ライフサイエンス担当ディレクターであるマーク・バービィ氏は、現在のIntelのスタンスをそう説明する。また、「Intelそのものが医療に対して、特化したものを開発する、というよりも、基本的なものを作り、それをカスタマイズして活用することで実現していく」と、かなり柔軟に対応していく姿勢も見せる。ヘルスケアのデジタル化は、まだ始まったばかりで、半導体にとって巨大な市場になるという期待はあるものの、それがいつ、そうなるのか、は各国・地域の医療に対する姿勢や予算といったものも絡み合い、不透明なところも大きい。しかし、そのプラットフォームの根幹を握るタイミングは、まさに現在、とも言え、Intelの同分野に対する今後の取り組みがどのような変遷を辿るのかが注目される。