2015年に「POCO(The Power of Cloud by Oracle)」というクラウド推進戦略を発表し、注目を集めた日本オラクル 代表執行役社長兼CEOの杉原博茂氏。以降、同社のクラウド事業は成長の一途をたどっている。さらなるクラウド事業拡大に向けて、来年、同社はどのような手を打つのだろうか。杉原氏に2016年の総括と2017年の抱負について聞いた。
クラウドビジネスに大きな手ごたえを感じた2016年
初めに、2016年のビジネスについて聞いたところ、「とにかく大きな手ごたえを感じました。社員からもそうした声を聞いています」という答えが返ってきた。
「クラウドのスタートアップなので、10年以上クラウドを手がけているベンダーと比べると、金額は小さいですが、今年は売上と利益のいずれも過去最高を更新しました。成長という意味では、上期だけで、新規の顧客が150社以上増えました。また、クラウドビジネスとして、まずSaaS、その後にPaaSの提供を開始し、今年にIaaSをリリースして、クラウドの三種の神器がそろいました」と杉原氏は話す。
同社のクラウドビジネスの広がりは、顧客の層の広がりにも現れている。オラクルと言えば、主な顧客は大手企業というイメージがあるだろう。だが、クラウドサービスに関しては、富士通や三井住友海上火災保険といった大手企業から、ラーメンのチェーン店を展開する一風堂、うどんのチェーン店を展開する新興企業、地方自治体、それも市町村まで導入が進んでいるそうだ。
「地方自治体としては、今年は徳島県の那賀町と宮城県の丸森町でわれわれのクラウドサービスが導入されました。いずれも人口1万人規模で、これまでにはお付き合いがなかった規模のお客さまです。また今回、自治体様より当社に直接問い合わせがあったことも驚きの1つです。クラウドなら、スマートフォンを店頭で買ってきて使うように、自分たちでも使いこなせると考えていただけたのではないでしょうか。このように、幅広いお客さまにわれわれのクラウドサービスを使っていただけた点で、今年はエキサイティングでした」(杉原氏)
なお、地方自治体が同社のクラウドサービスに注目する理由の1つに、インバウンドビジネスへの参入があるという。「地方自治体は、豊かな自然などの魅力的な資産を抱えているのに、海外にアピールする手段を持っていない。そこで、海外でも容易に展開できる当社のクラウドサービスに注目が集まるわけです。価格とスピードも評価されていると思います」と、杉原氏は語る。
クラウド重視で変わる人材活用
杉原氏は、新たなクラウドへの道を目指すための策として、営業体制の強化も挙げた。従来の大手企業のアカウント営業、シニアのコンサルタントに加え、若い人材を中心とした「Oracle Digital」、クラウドカスタマーコンシェルジュというチームを新たに設けたそうだ。クラウドビジネス関連で、若い人材を200人近く採用したという。
「やる気のある、デジタルネイティブな人材を増やしていきたい。そのためには、壁となっていた日本独自のルールも取っ払っていきます。日本しか知らないヒトはそれが標準です。しかし、私は米国本社で採用されているので、『米国本社ではそういうことはやっていない』と言うことができます」と杉原氏。
社員の福利厚生を充実させるため、例えば、今年10月にカフェテリアをオープンした。このカフェテリアも、「米国本社にはあるのに、日本にはなぜないの?」という発想から、生まれたそうだ。「がんばる社員のために、温かい食事を提供したい。そうすることで、生産性の向上にもつながる」と、杉原氏は話す。
さらに、今年は自転車通勤を希望する社員のために駐輪場を借り、来年からはドレスコードの変更に踏み切る。「上場企業である日本オラクルはスーツ着用が当たり前だった。しかし、来年からは、米国本社にならい、デニムでもスーツでもTPOにふさわしい服装であればよいというルールに変えます」(杉原氏)
「若手の採用」に並ぶ、人材活用のカギが「多様性」だ。「現在、アメリカ、ドイツ、ロシア、中国、韓国など、いろいろな国籍の人が働くようになってきました。新卒では、中国と韓国の人を採用しました。さまざまな人が一緒に働くことで、会社に活気が湧いています」という。
2017年のキーワードは「百人力」と「生産性向上」
2017年に向けた抱負を聞いてみたところ、「2017年は、百人力と生産性向上を掲げて取り組んでいきたい」という答えが返ってきた。百人力とは何を意味しているのか。杉原氏は次のように語る。
「ある時、今や死語になりつつある『百人力』という言葉を思いつきました。百人力には、『100人分の力があること』『力強く感じること』といった意味があります。つまり、『オラクルのクラウドが百人力だと思ってもらえること』『オラクルの社員が百人力となれること』を今年は追求していきたいと考えています。その集大成が生産性向上につながるのです。組織のために個人を滅私奉公させるのではなく、個人が生産性を向上することで、会社や社会に貢献できるのです」
幕府のために奉公する『江戸時代の生き方』ではなく、個人の力を武器に戦う『戦国時代の生き方』を目指すというわけだ。
そのために、先に挙げたようなカフェテリアの創設、駐輪場の整備、ドレスコードの変更といったことを行い、働き方改革を進めているという。「カフェテリアは『デジタルカフェテリア』として、モニタがさまざまな場所に設置されており、いつでもどこでも会話ができ、デジタルなツールが使えます。オラクルの社員はどこにいてもいつでも働くことができます。今年はこのことに積極的に取り組んできましたが、来年も引き続き推進していきます」と杉原氏。
「POCO」の宣言で注目を浴びた杉原氏だが、実のところ、恥ずかしかったという。しかし、それにより、「既定の概念をくつがえし、一気にクラウドが注目されるようになった。クラウドの広がりが外国で起こっていることではなく、日本で起きているということを理解してもらえるようになりました」と、杉原氏は話す。
「POCOを続けてきたおかげで、人口1万人弱の徳島県の那珂町からわれわれのPaaSを使って動画を安全に世界に発信したいというリクエストにこたえることができました。こうした動きは他の自治体にも広がります。クラウドビジネスの広がりにより、『日本はまだまだいける』という自信と感動を得ました」(杉原氏)
また、人々がクラウドを選ぶ理由について、杉原氏は次のように語る。
「クラウドにはパワーがあります。まず、システム導入に伴う資金のハードルを下げました。さらに、さまざまな技術を選び、長期間にわたり技術力をかけて作っていたERPなどの基幹システムを簡単に月額料金で使うことを可能にしました。
今まで、クラウドサービスを使ったことがないヒトから見ると、産業革命と同じくらいのインパクトがあるでしょう。その集大成として、私が社長に就任して以来、11四半期連続売り上げ増を達成しています」
そして、「オラクルは他人の技術を持ってきてクラウドを構築していません。自分たちで技術を開発し、組み上げて、使い込んでいるところが他社とは違います」と、同社のクラウドの強みを語る杉原氏。
来年は今年よりもクラウドビジネスの競争がはげしくなることが予想される。そうした中、同社の百人力がどのように発揮されるのか、注目していきたい。