近年注目が集まっているヘッダービディングですが、導入コストの高さやレイテンシー(広告遅延)等の懸念もあり、実際に導入されているメディアはまだまだ多くはありません。そんな中、総合ゲーム情報サイトを運営されている株式会社ゲームエイトにて、ヘッダービディングを導入されたということで、導入のきっかけや進め方、効果と今後の方針まで、詳しくお話を伺ってきました!
お話いただいたのは・・・
株式会社ゲームエイト マーケティング部 竹内 太一氏
株式会社ゲームエイト創業初期からジョインし、ライター業・ディレクター業を経てメディアマネタイズ業務に取り組む。
DFP運用を突き詰めていく中でたどり着いたヘッダービディングソリューション
従来の広告運用にて、どういった課題があったのでしょうか
Game8ではアプリやWebのゲームに関するニュースや攻略情報を発信しています。月間3億PV、月間UU数は1800万人になります。広告はバナーやオーバーレイを中心に、一部ネイティブアドや動画などを掲載しており、プログラマティック広告が売り上げの8割を占めています。以前はCPM固定での買い切りで各ベンダーとお取引していましたが、1年ほど前にDFPを活用した運用に切り替えました。長く買い切りが続いたので、広告枠の適正価格がつかみづらくなってしまったことや、いわゆる「焼き畑的」な広告掲載により、広告効果も悪くなってしまったことからの方針転換でした。広告運用はDFPのダイナミックアロケーション機能を用いてAdSenseとその他のネットワークの配信最適化を軸に、AdSenseと競合するフィラーネットワークのCPMを上げていくことに注力していました。しかし、各ベンダーのハンドリングが煩雑になってしまうことや、他フィラーのCPMを上げてもAdSenseの価格が中々上がらなかったことが課題でした。そうした課題に対する施策の打ち手を模索していく中で、にわかに流行りだしていたヘッダービディングを試みることにしました。
採用したヘッダービディングソリューションについて教えてください
Game8で導入したのはRubicon Projectのヘッダービディングソリューションです。各社が提供するヘッダービディングソリューションを比較し、その中で接続しているDSPが多かったこと、また日本国内でヘッダービディングを提供している事業者の中では最も古く、実績も多かったことから、採用に至りました。体制としては私とエンジニアの2名がメインで担当し、導入期間は比較検討も含めると約5カ月と、やや長丁場になりました。海外の事業者なので、契約段階で摺り合わせしなければならない点が多かったことも影響しています。
また、いざ導入となった際は、広告実装方法を見直さなくてはならない箇所が多く、その改修に多くの時間が掛かりました。導入を進めるにあたっては、まずPCにて影響範囲を区切ってテスト配信をしてからPC全ページで実装し、その後スマートフォンにも同様な実装を施すという手順を踏みました。テスト配信はDFPのKey-Valueを使って一部のページのみにヘッダービディングを反映させて、通常配信と並行させることで、効果を比較できるようにしました。
また、ヘッダービディングソリューションとDFPを連携させるにはラインアイテム(広告申込情報)の作成をRubicon Projectの担当者に依頼する必要があったのですが、特殊なkeyの設定やサイズの設定など、細かい依頼にも対応頂けました。
広告実装の改修と、想定外なエラーへの対応
導入に際し、苦労したことはどんなことですか
導入自体は弊社開発陣の全面協力も得られ、またRubicon Projectに日本人のエンジニアの方もいたのでサポートも厚く、スムーズに進みました。実際に苦労したのは、導入前の広告実装の見直しです。Google非推奨なDFPタグ実装をしていたのですが、Rubicon Projectのヘッダービディングを導入するには、これらの実装を全て排除しなければならず、サイト全体の広告実装を修正しました。
具体的には、標準のgpt構文でパスバックタグを生成して直接サイトに実装するとiframeを回避できる(通常のタグでは必ずiframeになってしまう)のですが、Game8ではジャック広告メニューやオーバーレイ、ネイティブアドの実装にこのパスバックタグを多用していました。また、このパスバックタグが同期通信(※記事ページのhtmlの読み込みに先立って広告タグを読み込む通信方法)だったので、必然的にその広告枠のインビュー率・CTRが高かったのですが、これを通常のタグ実装に切り替えたことで非同期通信になり、CPMが30~40%下落してしまうという想定外の事象も発生しました。
実装完了後は、リクエスト数に対するインプレッション数の乖離が大きくなってしまったり、何故か自分の環境では適切にヘッダービディングのcookie価格のKey-Valueの取得ができなかったりと、トライして初めて遭遇するエラーが多く、これらの把握や解決に時間と労力が掛かりました。
期待以上のCPM改善
導入後、期待した効果は得られましたか
現在PCの全ページへの導入が完了しているのですが、その効果は期待以上のものでした。ヘッダービディングで買い付けられた広告枠は、導入前とくらべ120%~160%のCPM改善が見られます。これまではGoogle AdSenseがとても強く、弊社のPC面で配信している広告の9割以上がAdSense経由だったのですが、現在は6割がヘッダービディングで買い付けられています。スマートフォンサイトについては現在一部にテスト導入をしています。こちらは枠によってはCPMが下がったものも見られました。効果検証はこれからなのでまだ結論は出ていませんが、スマートフォンはもともとGoogle以外のネットワークが強かったりもするので、PC程は効果が出ないかもしれません。
懸念していたレイテンシーの問題では、極端に表示速度が落ちたという実感値はなく、さほど問題はなさそうです。ただ今後対策を進めて行く上で障壁になる恐れもあるので、健在化した際には改めて調査・対策を進めて行くつもりです。また、前述したリクエスト数に対する各アドネットワーク管理画面でのインプレッション数の乖離については、従来よりも5%程度大きくなりましたが、ページあたりの収益は120%~130%増加したので、損益分を十分にカバーできました。総じて効果は高く、導入コストに見合う成果が得られたと実感しています。
ラッパーソリューションを導入し、4~5つのヘッダービディングソリューションを運用していく
今後の展開について教えてください
今後はPubmatic、もしくはRubiconやAppNexusらが共同で提供しているPrebidのラッパーソリューションを導入したいと考えています。またそれに伴い、各社のヘッダービディングソリューションの導入も平行して行っていきます。来年の3月頃までに、4~5つを運用できている状態を目指しています。余力があればサーバーサイドヘッダービディングの実装にもトライしたいです。
最後に一言お願いします
お話させて頂いた通り、ヘッダービディングは導入ハードルが低いものではありません。しかし、各ベンダーとの交渉やCPMを監視しての日々のチューニング作業に限界を感じているメディアマネタイズ担当の方は、思い切って導入に舵を切ってみることは良い試みだと思います。北米のパブリッシャーではかなり普及していると聞いていますし、国内でも導入事例やヘッダービッディング関連のリリースを耳にすることも多くなりましたが、まだリテラシーの高い一部のパブリッシャーにしか導入されていない印象です。 私たちもトライアンドエラーを繰り返し、チューニング技術を高めて行きたいと思います。
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本稿は、fluct magazineに掲載された記事を転載したものです。